最新記事

米外交

トランプを「無能」と正直に言った英大使、事実上の更迭 「忖度」足りず?

British Ambassador's Resignation Could Hurt National Security, Experts Say

2019年7月11日(木)14時20分
クリスティナ・マザ

腕組みをしてトランプとメイの共同記者会見を聞くダロック駐米英大使(2017年1月27日) Carlos Barria-REUTERS

<本国政府にトランプに関するネガティブな意見を送ってそれがたまたまリークされても、これまでなら辞める必要などなかった。それが今後は、怖くて本当のことが言えなくなる?>

ドナルド・トランプ米政権を「無能」などと批判した機密公電が流出し、物議を醸していたイギリスのキム・ダロック駐米大使が、7月10日に辞任した。この辞任劇は、ワシントンに駐在する世界の外交筋に衝撃を与え、今後の外交のあり方に深刻な影響を及ぼしかねない、と専門家は警告する。

「各国の大使や大使館職員は今後、これまでよりも報告の内容にずっと慎重になり、それが本国の安全保障を大きく損ないかねない」と、バラク・オバマ前大統領時代のホワイトハウスでグローバル・エンゲージメント担当ディレクターを務めていたブレット・ブルーエンは指摘する。「今後は、外交公電のなかで最も広く読まれる(外国首脳などに関する)率直な意見が、入らなくなってしまう」

2010年にウィキリークスが、大量の外交公電をリークした後も、そこに書かれていた内容のせいで辞任したり更迭された大使は一人もいなかったと、ブルーエンは言う。今回の辞任がどれほど衝撃的かわかるだろう。

<参考記事>英国はもう「帝国気取り」で振る舞うのは止めた方がいい 駐米大使が「トランプ大統領は無能」と酷評

トランプを「無能」としたダロックの公電は、何者かのリークを受けてデイリー・メール紙が7月6日に報じたもの。トランプは、ダロックを「頭がおかしい」「思い上がりの強い間抜け」などと罵倒した。

使命果たして更迭

米下院情報委員会のアダム・シフ委員長は、こうしたトランプの反応もまた、海外に駐在する米外交官たちの仕事に影響を及ぼす可能性があると指摘する。

「世界各地で働く外交官たちは、自国政府に率直な評価や助言を提供するのが仕事だ」と、シフは声明で述べた。もしもアメリカの大使がトランプのような外国首脳から、「頭がおかしい」「彼のことはもう相手にしない」などとしつこく中傷されたら、我々は憤慨するだろうし、それが当然だ。トランプが同盟諸国やその外交官に対するいじめを続ければ、アメリカが諸外国に派遣する外交官たちが仕返しを受けるかもしれない」

<参考記事>トランプの言うことは正しい

今回の一件は、イギリス政界にも波紋を広げている。当初、テリーザ・メイ政権は「本来の職務を果たした」としてダロックを留任していた。しかし、次期英首相の最有力候補でトランプの盟友でもあるボリス・ジョンソンは、ダロックを擁護しなかった。ダロックが辞任を決めたのもそのせいだと言われる。

「キム・ダロックが、外交官が本来するべき仕事をしたために、事実上更迭されたのは恥ずべきことだ」と、スコットランド行政府首相のニコラ・スタージョンは声明で批判した。「ボリス・ジョンソンがダロックのために立ち上がらなかったこと、そしてドナルド・トランプの行いに抵抗しなかったことは、多くを物語った」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中