最新記事

石油

ロシアとOPECが「政略結婚」 値下げ求めるトランプにらみ石油ゲーム

2019年7月8日(月)09時21分

OPECは石油減産の延長を決定。その1週間前にロシアのプーチン大統領が減産方針を明らかにしたことは、OPEC側の怒りを買った。写真はG20サミット期間中に会談したプーチン大統領(右)とサウジアラビアのムハンマド皇太子。6月29日、ロシア政府が大阪市で撮影(2019年 ロイター)

ロシアのプーチン大統領が先週末、石油出国機構(OPEC)の正式決定前に石油の減産延長を明らかにしたことは、加盟国の一部を怒らせた。

かつては石油市場におけるライバルと目されていた非加盟国のロシアが、OPECの政策形成に主導的な役割を果たしていると困惑したためである。

とはいえ、彼らもすぐに現実を受け入れ、石油価格押し上げというOPECの目標達成に向けてロシアは頼れるということを認めた。何しろ今は、トランプ米大統領という別の方面からの圧力も強まっている。

OPECの心変わり

トランプ氏は現在、OPEC、そしてその事実上のリーダーであるサウジアラビアに対してかつてないほどの圧力をかけ、原油増産によって燃料価格を引き下げるよう要求している。2020年の大統領再選をめざすトランプ氏にとって、燃料価格の抑制は重要な国内問題である。

イランのザンギャネ石油相は当初、プーチン大統領が減産延長を事前に発表したことに激しい怒りを表明していた。

同石油相は1日、OPEC加盟国の石油相が会合を開き、実質的に既定の合意を型通り承認するのに先立って、「このようなやり方では、OPECは死んでいくことになる」と断言し、ロシアとサウジに牛耳られていることを嘆いた。

ところがその日の夜になると、ザンギャネ石油相は「会合はイランにとって好ましいものであり、我々は望んでいた成果を挙げた」として、合意を支持する側に回った。

こうしてOPECとロシアは思いもよらぬ提携関係に入り、米国による増産と世界経済の成長鈍化に抵抗して、「OPECプラス」同盟を結成してグローバルな石油供給を抑制することになった。

これは、OPECとロシア双方がそれぞれの財政を強化するために原油価格の上昇を望んでいることによる、いわば政略結婚的な関係だが、トランプ政権からの要求に対してOPECの立場を強化することにもなりうる。

サウジアラビアのファリハエネルギー相は、今やプーチン氏がOPECのボスになったのかという質問に対し、「ロシアが支配しているとは考えていない」と述べた。「ロシアの影響力は歓迎されていると私には思える」

イランのカゼンプールOPEC理事も、自身の上司であるザンギャネ石油相の融和的な論調に呼応するように、こうした見解に同意する。

「ロシアは大きな産油国だ。ロシアがOPEC加盟国と何か合意したと発表するならば、それは歓迎すべきことだ」と、カゼンプール氏は言う。「我々は協力関係にある」

イランを抜いてサウジアラビアに次ぐOPEC第2の産油国となり、欧州・アジア市場でもイランの市場シェアを奪っているイラクも、やはりロシアの役割増大に好意的である。

数十年にわたって敵意と不信に彩られてきたロシアとの関係を鑑みれば、OPEC加盟国が一致してロシアを歓迎するのは大きな方針転換である。

2001年には、ロシアはOPECと歩調を合わせて減産に合意したが、その公約を守ることなく、逆に増産した。これは両者の関係をひどく損なった。その後、協力を試みては失敗を重ねてきたが、ようやく最近になって努力が実った。

サウジアラビア元石油相のナイミ氏は、著書「Out of Desert(砂漠より)」の中で、2014年のロシア当局者との会合は数分で終ってしまったと書いている。ロシアに減産の考えがないことが分り、彼は資料をまとめ、「これで会合は終わりということだな」と言ったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ステーブルコイン、決済手段となるには当局の監督必要

ワールド

ガザ支援船団、イスラエル封鎖海域付近で船籍不明船が

ビジネス

ECB、資本バッファー削減提案へ 小規模行向け規制

ビジネス

アングル:自民総裁選、調和重視でも日本株動意の可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 3
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かった男性は「どこの国」出身?
  • 4
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 5
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    10代女子を襲う「トンデモ性知識」の波...15歳を装っ…
  • 10
    アメリカの対中大豆輸出「ゼロ」の衝撃 ──トランプ一…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 10
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中