アメリカ心理学会「体罰反対決議」の本気度──親の体罰を禁じるべき根拠

2019年6月21日(金)17時15分
荻上チキ(評論家)、高 史明(社会心理学者)

日本での研究で分かった、体罰による「効果」

体罰が行動上の問題をもたらすという因果関係を検証することは、実は容易ではない。親が体罰を使うほど子の問題が多いという相関関係があったとしても、子に行動上の問題があるからこそ親が体罰を使わざるを得なくなるという逆の因果関係の可能性もあるからである。また、体罰以外の家庭内の問題が、体罰の使用にも行動上の問題にも繋がっているといった可能性もある。

因果関係を明らかにしたい場合、心理学で頻繁に用いられる方法は「実験」である。例えば実験参加者を2つの条件にランダムに割り振り、条件間で異なる「結果」が示されるかどうかを確かめるというものだ。しかし体罰の場合、無作為に選んだ子どもに体罰を使い、残りの子どもを体罰以外の方法で育てるというのは、倫理的に許容できないし実現は不可能だろう。

そこで奥園らは、縦断的データに「傾向スコアマッチング」という統計的手法を適用することで、この問題に対応しようとした。「傾向スコアマッチング」についてごくかいつまんで説明すると、統計的モデルを用いて、事前に測定した変数が体罰使用群と体罰不使用群との間でほぼ等しくなるようにし、「あたかもランダムに割り振ったかのような比較」を可能にする手法である。

こうして体罰の使用が持つ効果を検討したところ、3.5歳時点(2004年)で親が体罰を使用すること(子どもが悪いことをしたときに、「お尻をたたくなどの行為をする」)は、5.5歳時点(2006年)で子が行動上の問題(「落ち着いて話を聞くこと」「約束を守ること」などができない)を示す確率を上昇させるという知見が得られたのである。

体罰の頻度で比較すると、「全く体罰しない」は「ときどきする」より、「ときどきする」は「常にする」より、好ましい発達をもたらしていた。

つまり、日本においても体罰の使用は子どもの発達に好ましくない影響を及ぼす。しかもこれは単なる相関ではなく前者が後者をもたらすという因果関係である可能性が高い、ということだ。

では、体罰以外の有効なしつけ方略とはどのようなものであろうか? ここではLazelere & Kuhn (2005)のメタ分析で「条件付き体罰」と同程度の効果であった2つに絞って紹介しよう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、早期利下げ不要 年内に物価上昇へ=アトラン

ワールド

イスラエル・イラン停戦、持続性は不透明とロシア外相

ビジネス

EXCLUSIVE-世界の中銀、準備資産で金・ユー

ワールド

イスラエル、イランへの攻撃指示 「停戦違反」主張 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 6
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 7
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 8
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中