最新記事

日本外交

イラン訪問で北朝鮮外交の失点を取り戻せるか 安倍首相

Japan Was Left Out of North Korea Talks So It's Stepping Up Now on Iran

2019年6月13日(木)19時50分
トム・オコナー

2018年6月にアメリカの大統領と歴史的な会談を果たすまでに、金正恩は、既に韓国、中国、ロシアを訪問し、華々しい外交デビューを果たしていた。今さら安倍と並んでカメラに収まっても、得られるものはない。核実験と長距離ミサイル発射実験の停止では、表向きは既にアメリカに譲歩している。「より射程の短いミサイルの実験は米朝間では交渉材料になっていないので、下手に安倍と会談すればそれを失うリスクこそあれ、メリットはない」と、スチュワートは本誌に語った。北朝鮮は今年5月に短距離ミサイルの発射実験を再開したと伝えられており、日本がミサイルの射程圏内に置かれている状況は変わっていない。

一方、日本にとって最も重要な課題は拉致問題だ。1970年代末~1980年代初めにかけて、政府が認定したケースだけでも17人、おそらくは800人もの日本人が北朝鮮の工作員に連れ去られたとみられている。拉致問題は「政権の最重要課題」と言ってきた安倍は最近になって方針を変え、拉致問題が明確に議題にのぼらなくとも「前提条件なしで」金正恩と会う用意があると述べたが、「安倍が(この問題で)何らかの進展を勝ち取れないとすれば、政治的なリスクは非常に大きい」と、スチュワートは言う。

国際社会もイランの味方

北朝鮮とは対照的に、ここ数年アメリカとの関係が急激に悪化しているイランに安倍が行くのは意外に思えるかもしれない。だがアメリカの同盟国でありながらイランなど中東諸国とも友好関係を築いてきた日本は、こうした不和こそ有能な仲介役として自国をアピールできるチャンスだと考えてきた。しかも今回は、国際社会もトランプではなくイランの味方だ。

イランは2015年、核兵器保有を諦める代わりに経済制裁を解除してもらう核合意をアメリカ、中国、EU、フランス、ドイツ、ロシア、イギリスと結んだ。日本は核合意の当事国ではないが、やはりこの合意を支持してきた。それをトランプ政権が昨年、一方的に離脱して経済制裁を再開したのだ。イランの弾道ミサイル開発や、外国の武装組織に対する支援を阻止するには、役に立たない合意だった、というのがトランプの主張だ。

トランプ政権は、日本をはじめ8カ国に対しては、イラン産原油の禁輸措置を一時的に免除していたが、5月からは例外もなくなり全面禁輸が施行された。輸入原油に依存する日本だが、逆らえばトランプ政権の制裁を受けかねなず、従わざるを得ない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

航空業界ネットゼロに黄信号、SAF供給不足 目標未

ビジネス

金利上昇続くより、日本の成長や債務残高GDP比率低

ワールド

米、中国軍のレーダー照射を批判 「日本への関与揺る

ビジネス

午前の日経平均は反落、FOMC警戒で朝高後に軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中