最新記事

ベトナム

GDP7%の成長続くベトナムで電力ブーム 石炭産業の「希望の星」に

2019年6月3日(月)10時40分

5月24日、ベトナムは目下、エネルギー関連投資家の熱い視線を浴びている。電力需要拡大に対応するため、今後10年間のエネルギー関連支出が最大1500億ドル(約16兆4000億円)に達すると見られているためだ。2016年、ハノイで撮影(2019年 ロイター/Kham)

ベトナムは目下、エネルギー関連投資家の熱い視線を浴びている。電力需要拡大に対応するため、今後10年間のエネルギー関連支出が最大1500億ドル(約16兆4000億円)に達すると見られているためだ。

環境への配慮を重視する兆候はあるが、主力は石炭になりそうだ。

1億人に迫る人口を擁し、国内総生産(GDP)が毎年約7%のペースで成長するベトナムは、現在約4万7000メガワット(MW)の発電量を、2020年にまでに6万MW、2030年までに12万9500MWに増やす必要があると予測している。

ベトナムが目標達成するには、隣国タイにおける総発電容量を上回る能力を2025年までに追加する必要があり、2020年代半ばに同国の電力セクターは英国よりも大きくなる可能性が高い。

「ベトナムは石炭産業にとって大きな成長ストーリーとなっている。石炭需要はきわめて強くなるだろう」。シンガポールに本拠を置くコモディティ市場専門コンサルタント、シエラビスタ・リソーシズでマネージングディレクターを務めるパット・マーキー氏はそう語る。

韓国サムスン電子などグロバール企業の生産拠点でもあるベトナムは、かつて水力発電に依存していた。現在では低コストだが環境汚染をもたらす石炭火力発電が主力となっている。

米ハーバード大学ケネディスクールのアッシュセンター・オン・ベトナムによる研究論文によれば、2017年までの5年間で、ベトナムの石炭消費量は75%増加しており、これは世界のどの国よりも速い増加ペースだという。

現在のベトナムの電力開発計画(PDP7)では、新規需要への対応において石炭火力発電を主役に据えている。

PDP7では、2030年に向けて発電量が倍増するなかで、石炭火力発電が急速に成長し、エネルギー市場に占めるシェアが現在の33%から56%に拡大すると予想している。

だが、2016年に入りPDP7改訂に伴って重点が変化を始め、低コストの再生可能エネルギーが支持されるようになっている。アナリストは、今年後半に策定されるPDP8では、政策調整がさらに進むと予想している。

「ベトナムの優先課題の1つは、環境を守るため、再生可能エネルギー源の開発を進め、従来の電力源に対する依存度を徐々に減らしていくことだ」とCao Quoc Hung通商産業副大臣は今月初め、同省ウェブサイトに掲載された声明で述べている。

再生可能エネルギーの展望は

急速な環境汚染の拡大に直面したベトナム通商産業省は、いまだエネルギー部門の脇役にすぎない再生可能エネルギー普及に向けたインセンティブを提供し始めた。

6月に上程予定の法案によれば、国内電力供給を一手に担う国営のベトナム電力公社(EVN)は、太陽光発電プロジェクトによる電力を1キロワット時(kWh)当たり6.67-10.87セントで買い取ることになる。

「固定価格買取(FIT)制度の水準が高いため、太陽光発電に対する関心は非常に高い」。そう語るのは、コンサルタント会社ローランド・ベルガーのディエター・ビレン氏だ。

ベトナムの太陽光発電セクターに早くから参入した事業者の1つが、隣国タイの電力会社ガルフ・エナジーだ。同社は今年、固定価格買取制度の対象となる複数の長期プロジェクトに参加している。

ビレン氏は、「魅力的なFIT制度のおかげで、風力発電への関心も高まっている」という。同買取価格は、地上(オンショア)風力発電ではkWh当たり8.5セント、洋上(オフショア)風力発電では同じく9.8セントとなっている。

6月には世界風力会議(GWEC)がベトナム首都ハノイで会合を開き、新たな市場における成長を推進したい考えだ。

政府が再生可能エネルギーへの支援政策を続け、風力・太陽光発電のコストが低下し、性能の向上が進めば、2030年時点におけるベトナム最大の電力源として、再生可能エネルギーが石炭の座を脅かす可能性もある、とローランド・ベルガーのビレン氏は指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界経済の不確実性、貿易戦争終結でも続く=アイルラ

ワールド

パキスタン、インドの攻撃で約50人死亡と発表 40

ビジネス

再送日産、追加で1万1000人削減 従来の9000

ビジネス

ホンダの今期、営業利益5000億円に半減 米関税や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 8
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 9
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中