最新記事

ベトナム

GDP7%の成長続くベトナムで電力ブーム 石炭産業の「希望の星」に

2019年6月3日(月)10時40分

それでも石炭が王様か

だが、PDP8の長期計画がどうであれ、電力需要に対応する手っ取り早い対策をベトナムが必要としていることには変わりない。

「ベトナムは大規模な経済成長のただ中にあり、管理可能なコストで、なるべく早く発電能力を増大する必要がある」とシエラビスタのマーキー氏は語る。石炭火力発電は、現在進行中の計画により2020年までに現在の15ギガワット(GW)に加え、さらに2.7GWが追加されると同氏は言う。

政府データによれば、今月の電力消費量は過去最大の3万6000MWに達しており、現在供給可能な最大電力に迫っている。政府は今月、消費者に対し、大停電を回避するため、エアコンの設定温度を低くしすぎないよう要請した。

世界銀行によれば、ベトナムでは2030年までに最大1500億ドルに上る電力セクター向け投資が必要になるという。これは、2010年以降、同セクターに投じられた800億ドルのほぼ2倍に相当する。

ベトナムは、必要な電力増を実現するための資金調達に苦戦しており、汚職も引き続き問題となっているが、企業の市場参入意欲は高い。

世界最大級のガス火力発電タービンメーカーであるドイツのシーメンスは4月、将来的な協力に向けた覚書(MoU)をベトナム政府と調印した。

シーメンスでアジア太平洋地域大規模ガスパッケージ・ソリューション事業の担当副社長を務めるグレガー・フランク氏によれば、同社は、大規模発電プロジェクトに向けた「初期の開発及び株式・社債による資金調達」の段階にあるという。

また4月には、ベトナムにおける近年で最大級のエネルギー契約として、日本の国際協力銀行(JBIC)を中心とするコンソーシアムが、石炭火力発電所の建設向けに20億ドルの融資を承認した。

ベトナム国内の石炭埋蔵量が減少していることもあって、同国の年間石炭輸入量は2000万─3000万トンに、「今後1年程度で」増える、とコモディティ専門商社タタ・インターナショナルで鉱産資源販売部門を率いるサビアサチ・ミシュラ氏は予想する。

ベトナム税関のデータによれば、今年1-4月、ベトナムの石炭輸入量は前年同期比で2倍以上の1334万トンに達した。

マーキー氏は、現在の需要6300万トンに対して、輸入量が2030-40年のあいだに8000万トンから1億1000万トンでピークに達すると予測する。

こうした急成長が実現すれば、他の多くの国で斜陽化している石炭産業にとって、ベトナムは最後の急成長市場の1つになるだろう。

(翻訳:エァクレーレン)

[ハノイ/シンガポール 24日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ相場が安定し経済に悪影響与えないよう望む=E

ビジネス

米製薬メルク、肺疾患治療薬の英ベローナを買収 10

ワールド

トランプ氏のモスクワ爆撃発言報道、ロシア大統領府「

ワールド

ロシアが無人機728機でウクライナ攻撃、米の兵器追
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    【クイズ】 現存する「世界最古の教育機関」はどれ?
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中