最新記事

M&A

FCA=ルノー統合撤回、ゴールドマンサックス人脈によるM&Aチームの敗北か

2019年6月7日(金)11時52分

フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と仏ルノーの統合撤回は、大手投資銀行ゴールドマン・サックスの現役社員と元社員の間で築かれた強力なネットワークによってフランス政府の支持を取り付けるという試みが、失敗に終わったという一面があった。写真はルノーのロゴの前を歩く男性。仏ナント近郊のディーラーで3日撮影(2019年 ロイター/Stephane Mahe)

フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と仏ルノーの統合撤回は、大手投資銀行ゴールドマン・サックスの現役社員と元社員の間で築かれた強力なネットワークによってフランス政府の支持を取り付けるという試みが、失敗に終わったという一面があった。

FCAの主取引金融機関は、前最高経営責任者(CEO)の故セルジオ・マルキオンネ氏に食い込んでいたUBSだったが、ルノーとの統合計画に関してはゴールドマンがUBSを押しのけて主幹事を獲得した。

一方、ルノーのアドバイザーは、ニューヨークを拠点とする企業合併・買収(M&A)助言専門投資銀行アルディア・パートナーズで、2016年に設立したのはゴールドマン出身のクリス・コール氏だった。コール氏はゴールドマンに30年間在籍し、投資銀行部門の共同会長も務めている。

統合交渉に関与したある関係者は「この案件は互いにずっと前から気心が知れている友人間で練り上げられた。しかしそうした関係性や豊富な銀行業の経験にもかかわらず、うまくいかなかった」と述べた。

コール氏はルノーのために統合交渉に直接加わった一方、FCA側はゴールドマンのフランソワ・ザビエル・ド・マルマン投資銀行部門会長がその相手役になった。

この2人は、やはりゴールドマン出身でフランスのM&A助言専門投資銀行ダンジェランのローラン・クラレンバッハ氏と緊密に連携して話を進めていた。ダンジェランは、創設者のブノワ・ダンジェラン氏がマクロン仏大統領と親しい関係にあるため、FCAが招き入れた。

こうした布陣を敷いた両社のアドバイザー陣営は、交渉成功に自信満々だった。複数の関係者によると、これら「ゴールドマン人脈」の効果で、統合案が公になる前にフランス政府の支持を得られるとの期待が出ていたという。

ところが今回は、フランス政府が新会社の経営に対するより強い発言権を求めた上に、ルノーと連合を組む日産自動車の抵抗もあって、ゴールドマン関係者の力さえ及ばなかった。

1人目の関係者は「案件の複雑性をうまく処理できなかった。また日産を蚊帳の外に置いた作戦も裏目に出た」と指摘した。

フランスのルメール経済・財務相は、交渉を進める主な条件の1つとして日産の支持を挙げたものの、FCAとアドバイザーは日産からの支持を取り付けるための根回しをせず、リークを避けようとして日産に情報を流さなかったのだ。

日産に近い筋は「最初から準備不足だった。FCAのアドバイザーは日産をのけ者にして、数日間でフランス政府の承認を得られると思っていた」と語った。

[ロンドン 6日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドGDP、7─9月期は前年同期比8.2%増 予

ワールド

今年の台湾GDP、15年ぶりの高成長に AI需要急

ビジネス

伊第3四半期GDP改定値、0.1%増に上方修正 輸

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中