最新記事

老後資金

50代の半数はもう手遅れか──生活水準を維持可能な資産水準を年収別に推計する

2019年6月12日(水)16時30分
高岡 和佳子(ニッセイ基礎研究所)

【老後は満足度が逆転?】高収入だった世帯のほうが、老後は生活水準が大きく低下する傾向がある volkanakmese-iStock.

<老後の備えに必要な資産は一般に2,000万円~3,000万円とされるが、その額は退職前の年収にも左右される。皮肉なことに、年収500万円だった人は資産2,000万円でも生活水準を保てるが、年収1,000万円だった夫婦の場合、半数は老後の生活水準の大幅な低下が避けられないことがわかった>

老後のために、資産をどの程度用意すればよいのか。一般的に、夫婦二人の老後に必要な資金は2,000万円~3,000万円が目安とされる。実際、2,000万円~3,000万円の資産を有す高齢者の約半数が現在の生活で満足しているといった調査結果がある。

しかし、2,000万円~3,000万円もの資産があっても、半数は満足できる生活ができていないとも言える。これは、退職後の可処分所得や満足できる生活水準が、世帯により大きく異なるからではないだろうか。

退職後の可処分所得や満足できる生活水準は退職前の年間収入の状況に因ると考えられることから、50代のサラリーマン夫と専業主婦の二人世帯を対象に、老後の生活のために用意すべき金額を年間収入別に推計した。推計結果などから、50代世帯の半数は、老後の生活水準の大幅な低下が避けられない状況にあることがわかった。

1──老後のための必要資産額は人それぞれ

老後のために、資産をどの程度用意すればよいのか。一般的に、夫婦二人の老後に必要な資金は2,000万円~3,000万円が目安とされる。実際、2,000万円~3,000万円の資産を有す高齢者の約半数が現在の生活で満足しているといった調査結果がある(1)。約半数が満足できる生活をしているのだから、2,000万円~3,000万円という水準は目安としては正しいと言えるだろう。

しかし、2,000万円~3,000万円もの資産があっても、半数は満足できる生活ができていないとも言える。これは、退職後の可処分所得や満足できる生活水準が、世帯により大きく異なるからではないだろうか。

Nissei190611_data01.jpg

ボストンカレッジの退職研究センター(Center for Retirement Research at Boston College)は、退職後の生活水準低下をリタイアメント・リスクと定義し、定期的に退職後の生活水準が低下する世帯の割合を公表している。当然、退職前の生活水準はその時点での世帯収入に依存し(図表1)、年間収入が1,500万円以上の勤労者世帯と200万円未満の勤労者世帯とでは、月額消費支出におよそ4倍の差がある。生活水準の低下をリスクと捉えるならば、退職後に望む生活水準も退職前の年間収入の状況に依存すると考えられる。

そこで、退職までの期間が短く、将来の不確実性要素が相対的に少ない50代のサラリーマン夫と専業主婦の二人世帯を対象に、老後の生活のために用意すべき金額を年間収入別に推計する。併せて、資産の準備状況別にどの程度生活水準が低下しうるのかを示す。最後に、退職後の生活水準低下が懸念される世帯の割合を推計する。

――――――――
1 野尻哲史「高齢者の金融リテラシー~生活に不安を抱えながらも資産の持続力に楽観的~」フィデリティ退職・投資教育研究所

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、9月利下げ観測維持 米ロ首

ビジネス

米国株式市場=まちまち、ダウ一時最高値 ユナイテッ

ワールド

プーチン氏、米エクソン含む外国勢の「サハリン1」権

ワールド

カナダ首相、9月にメキシコ訪問 関税巡り関係強化へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中