最新記事

中国経済

中国当局の公害取締りで苦境の「汚染地域」 規制対策と景気後退でWパンチ

2019年5月31日(金)14時00分

5月24日、中国内陸部の産業地帯は長年の間、経済を築き上げるのに必要なセメントや鉄鋼を生産する無数の工場から出る汚染物質が招いた、大気や水路の汚染に悩まされてきた。写真は2月、河南省安陽で鉄鋼会社が上演した京劇を見る男性(2019年 ロイター/Thomas Peter)

中国内陸部の産業地帯は長年の間、経済を築き上げるのに必要なセメントや鉄鋼を生産する無数の工場から出る汚染物質が招いた、大気や水路の汚染に悩まされてきた。

公衆衛生上の一大問題となったこの課題に取り組むため、当局は汚染産業への取り締まりを強化。人口約1億人、数百の工業の町を抱える河南省などが、その対象となった。

河南省全域の工場所有者や実業家、顧客や労働者への取材によって、こうした取り締まりが、汚染産業に依存している町や都市の経済に打撃を与えている実態が浮かび上がった。

河南省の製造業は特に、新たな環境規制の影響を強く受けており、中国の経済減速や米国との過酷な貿易戦争による圧力とも相まって、苦境に立たされている。

市民に健康的な環境を提供すること、そして沿岸部に比べて発展が遅れた地域で経済成長の維持を両立させる困難さも浮き彫りにした。

中国は、環境取り締まり強化によるコストの統計を公表していないが、短期的な痛みは、経済の「アップグレード」を通じた長期的成長につながる、と考えている。

中国国務院(内閣に相当)の情報担当部局に対して新規制の経済的影響について質問をファクスで送信したが、返信はなかった。

中国の経済全体と同様に、をあてにならない公式データから河南省における経済の全体像を把握するのは困難だ。河南省の成長率は、公式データによると2018年は7.6%で全国の数値より高いが、2017年と比べると0.2ポイント低下している。

しかし、ロイターが河南省全域で取材したところ、消費者は出費を控え、各都市は経済の立て直しに苦戦しており、環境規制がビジネスや雇用に打撃を与えていることが分かった。

鉄鋼街の痛み

鉄鋼の街・安陽は、中国でも最悪レベルの大気汚染に長年悩まされてきており、今回の公害防止キャンペーンによって打撃を受けた。

人口500万人超の同市では、至るところで国有企業である安陽鋼鉄のインフラやロゴマークがみられる。市当局は、地元の産業に設備を更新して汚染を減らすことを強制し、従わない企業を閉鎖した。

両親が1983年に設立したコークス用炭製造会社Baoshun High-Tech Corporationを経営するLi Huifeng社長は、規制のコストは痛いものだったと話す。

安陽の西方の丘陵地に広がる同社の広大な工場は昨年冬、基準を上回る低排出設備を導入したにもかかわらず、生産減を余儀なくされた。

「昨年は事業は非常に好調だったが、今年は不透明感ばかりだ」と、Li氏は言う。鉄鋼生産に使われるコークス用炭を製造する業者の多くは、新規制により閉鎖に追い込まれるだろうと同氏は言う。

安陽の西側に工場があるスチール製品会社Xinyuan Steel Millの経営者Li Xianzhong氏は、新たな環境規制により、生産減とコスト上昇に直面していると話した。

業界推計によれば、鉄鋼生産の「環境コスト」は、取り締まりが強化された2014年の1トン当たり50元(約790円)から、150元に急騰している。

「設備投資には多額の資金が必要だ。投資した後も、操業コストが以前より高くなっている。基準を満たさなければ、操業が許可されない」と、Li氏は話した。

市の中心部にある安陽鋼鉄の巨大工場の周辺では、住民や労働者が、新たな環境基準で、生活が厳しくなったと訴えた。

小さな溶鉱設備を備えた小規模工場も、規制対象となった。

「以前はタバコを贈ったり一度食事をおごったりすれば、1年は大丈夫だった。だが今では全く効果がない」。当局によって閉鎖された自転車修理工場を経営していたZhangと名乗る男性はそう語った。

安陽市はこの1年、よりクリーンで新しい経済成長を後押ししてきた。窯業やセメントなどを手掛ける小規模工場を数百件閉鎖する一方で、新しい工業団地を建設したり、優遇措置を講じたりして、太陽光発電パネルや電気自動車などの産業を呼び寄せようとした。

だが、中国経済全体が減速する中で、同じような振興策を打ち出した無数の自治体との競争に苦労している。

また、汚染防止の取り組み成果もまちまちだ。

鉄鋼業は、今も安陽経済の半分以上を占めており、その割合は10年前から変わっていない。環境は依然として劣悪だ。最近同市を訪れると、硫黄のにおいが街中に漂い、スカイラインを埋める数百のクレーンに取り付けられたライトもかすんで見えた。

中国生態環境省で大気汚染を担当するLiu Bingjiang氏によると、近隣の工業地帯からスモッグが流れ込み、地元のクリーンアップ作戦が台無しになることも、問題の1つだという。

「いろんな対策や計画が講じられているが、それでもスモッグは解決していない」と、前出したスチール製品会社経営者のLi氏は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBは当面政策維持を、生産性頼みは尚早=カンザス

ワールド

米雇用統計「素晴らしい」、米は借入コスト減らすべき

ワールド

米が制限順守ならロシアも同調、新START失効でラ

ビジネス

1月米雇用、13万人増と1年超ぶり大幅増 失業率4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 7
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中