最新記事

中国経済

中国当局の公害取締りで苦境の「汚染地域」 規制対策と景気後退でWパンチ

2019年5月31日(金)14時00分

ブーツ工場も閉鎖

汚染防止の取り組みは、もっと小さな産業の町も直撃している。

河南省北東部にある桑坡の村は、以前は豪州発の米国ブランドUGG(アグ)のブーツを模倣した製品を作る十数軒の羊皮工場が中心産業だった。

村の雇用の中心はこれらの羊皮工場だったが、環境コストは高くついた。羊皮の処理には大量の水が必要で、地元の水源が汚染されたのだ。

昨年7月、警察車両数十台がサイレンを鳴らして桑坡に乗り込み、ほとんどの工場を閉鎖させた。

各工場には政府監督官が送り込まれ、指示を順守しているかどうか見張っている。環境規制に違反した疑いで、工場主3人が逮捕された。

最近ロイターが桑坡を訪れた際、本来であれば生産のピーク時なのに、ほとんどの工場が稼働していなかった。仕事を求めて数百人が村から脱出。商店のシャッターは閉じられ、通りに人影もなかった。

「この村は転機を迎えている」と、Dingと名乗る元工場オーナーの男性は語る。大半のビジネスは「生きているより死んだも同然だ」と言う。

工場が閉鎖される前、6500人の村人の大半がムスリムの回族である桑坡は、小さいながらも、よく知られた存在だった。

アリババ・グループ・ホールディング傘下の電子商取引サイト淘宝網(タオバオ)でトップレベルの売り上げを収めた「淘宝村」として2015年、中国中部で初めて選ばれ、全国紙に掲載されたことで知名度が広がった。

だが昨年、汚染取り締まりが強化されると、それも一変した。県の行政府のトップが村を訪れて集会を開き、全工場を永久閉鎖すると脅した、と工場主らは言う。結局、135工場のうち19工場が操業を継続することで話がまとまった。

操業継続を選んだ工場は、水処理の基準を満たすための設備投資と事業改善に合意した。合意しなかった工場は閉鎖され、ボイラーや処理機材は破壊された。

桑坡を管轄する県級市の孟州当局に電話取材を試みたが、コメントは得られなかった。だが孟州当局のサイトによると、市長は昨年、取り締まりは市民の意志に沿った、必要な措置だと発言している。

桑坡の共産党幹部に無料メッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」で接触したが、コメントを拒否された。携帯電話にも出なかった。

地元政府の計画では、残る工場を整理して、新たな工業地区を年内に立ち上げる予定だ。だが、工場のオーナーは、建設の遅れを心配しており、最終的には閉鎖に追い込まれるのではないかと懸念している。

元工場主のDing氏は、取り締まりがこれほど厳しいものになるとは予期していなかったと話す。銀行も融資自粛を促された。

「村の人間はみな、嘆き悲しんでいる。これほど厳しくなるとは誰も想像していなかった。みな途方に暮れている」と、Ding氏は嘆いた。

(David Stanway記者, Philip Wen記者, Stella Qiu記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

[安陽/桑坡(中国河南省) 24日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 2029年 火星の旅
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月20日号(5月13日発売)は「2029年 火星の旅」特集。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

りそなHD、発行済み株式の1.74%・300億円を

ビジネス

ソフトバンクG、1―3月期純損益5171億円の黒字

ワールド

米中貿易協議、事態悪化回避メカニズムを構築=米財務

ビジネス

英労働市場の冷え込み続く、被雇用者数が減少 賃金の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 8
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中