最新記事

米中関係

アメリカが陥るファーウェイ制裁の落とし穴

The 5G Fight Is Bigger Than Huawei

2019年5月30日(木)11時30分
エルサ・カニア(中国軍事・技術アナリスト)

アメリカは必要以上の損害を出さないよう慎重に動かなければならない。やり方を誤ると、アメリカの重要産業の利益を損ね、さらには世界に波及する恐れがある。既にファーウェイの主要サプライヤーや、中国市場への依存度が高い多くの企業の株価が急落している。

何か手を打たなければ、長期的には損失がさらに膨らみかねない。ファーウェイが昨年、米企業から調達した部品は、金額にして約110億ドル。米企業は潜在的にこの規模の痛手を負う恐れがある。

ヨーロッパでは、アメリカと同盟・協調関係にある国々が懸念を募らせている。各国内のネットワークへの影響が心配され、アメリカとの関係が疎遠になる恐れもある。

今回の措置は、通商協議における単なる作戦ではないかという印象(恐らくは事実だが)もあり、アメリカの信用を傷つける危険性をはらんでいる。仮にトランプ政権が措置を緩和したり、17年の中興通訊(ZTE)のようにエンティティー・リストから除外したらどうなるか。現実に存在するファーウェイの脅威と不正行為の深刻さを軽んじることになるだろう。

それだけではない。同社の主張と中国政府のプロパガンダに迎合することにもなる。アメリカの政策はどこまでも「政治的」であり、本当に安全保障上の懸念に基づくものでもないし、法律を公平に適用することもないという主張だ。

米商務省はファーウェイのエンティティー・リスト入りを、対イラン制裁違反への対応だと説明した。それ以外にも、中国軍や国家安全省(MSS)との関連性も明らかに憂慮すべき事態だ。例えば情報活動の隠れみのにされた、看板にされた、MSSから資金を提供された──などと指摘されている。

その一方で、米政府がもっと広範な攻勢を意図している可能性もある。だとしたら賢い戦略とは言えないし、逆に損失を招きかねない。米中間の産業構造の再定義を意図しているなら、もっと慎重を期すべきだ。

米中対立の核心にある緊張状態は、経済的に深く相互依存しながら戦略上でも技術面でも競争が激化するという危険な状態のせいで起こっている。産業構造の再編と多様化が進めば、アメリカの中国企業に対する依存度は減るかもしれない。アメリカにとって、サプライチェーンと全体的な産業基盤の安全性や強さが脅かされる危険は減るだろう。

最悪のシナリオに備えを

ここで肝心なのは、広範な攻勢を行うかどうかではなく、どの程度まで、どのように行うかだ。かつては、相互依存関係は紛争を防止すると見なされた。しかし込み入った関係が悪用されたり、武器として利用されるといった危険性のせいで、米中摩擦は悪化してきたようだ。均衡状態へ移行するには時間と、現実的な選択肢を見極める必要がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ゼレンスキー氏、オデーサの新市長任命 前市長は国籍

ワールド

ミャンマー総選挙、全国一律実施は困難=軍政トップ

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中