最新記事

インド

与党の「圧勝」を許したメディアの怠慢と罪

2019年5月27日(月)15時20分
ビシャル・アローラ

苦戦が予想されるなか与党を大勝に導いたモディ ADNAN ABIDI-REUTERS

<「フェイクニュース」よりもずっと危険な「フェイク争点」の厄介な後始末>

インドで5年に1度の総選挙が行われ、モディ首相の与党・インド人民党(BJP)が、単独過半数を獲得した。苦戦が予想されたBJPがここまで大勝を収めた一因は、インドのメディアの怠慢にある。

それも政権寄りの大手メディアだけではない。「伝統的なジャーナリズム」を実践するリベラル系メディアや独立系新聞も、与党が自らに有利に争点を設定するのを許してしまった。

そもそも選挙とは、投票によって物事を決めたり、公職に就く人を選んだりするプロセスだ。だが、インドのジャーナリストたちは、選挙とは第1に、政治指導者たちの資質を試す機会、あるいは候補者や政党が競い合う機会と見なしてきた。

このため、選挙によってその意見を反映するべき有権者のニーズや懸念は、政策論争の周縁に追いやられてしまう。そして政党や政治家にとって都合のいい争点が設定され、選挙戦を支配するようになる。

今回の総選挙でも、まさにそれと同じことが起きた。

BJPの候補者たちはヒンドゥー至上主義とテロの脅威をあおる発言を繰り返した。このためBJPが州政府で与党を占める州では、牛肉を食べたなどと疑いをかけられたイスラム教徒がリンチされる事件が相次いだ。

2月に北部ジャム・カシミール州で、パキスタンに拠点を置くイスラム過激派勢力による自爆テロ事件が起きると、BJPはイスラム排斥的な主張を一段と強めるようになった。だがその真の目的は、モディ政権の多くの失敗から大衆の目をそらすことにあった。

経済や社会問題は無視

モディがこの5年間に実施してきた政策の中には、高額紙幣の使用停止や物品サービス税の導入など、インド経済に混乱を引き起こしたものもあった。農村では借金を苦にした自殺者が急増し、汚職や失業への対策も遅れている。

つまりヒンドゥー至上主義とイスラム排斥は、BJPが自分たちに都合の悪い問題から大衆の目をそらすために示した「フェイク争点」。だが、この2つは極めて感情的な対立に発展する恐れがあり、民主主義にとっては「フェイクニュース」よりも大きな危険を秘めている。

さらにBJPは、野党は弱くて軽率だというイメージをまき散らした。最大野党・国民会議派を率いるラフル・ガンジー総裁は、ソーシャルメディアで散々笑い者にされた。だが、リベラル系メディアはモディやBJPを批判することに忙しく、野党の実力を報じることに力を入れなかった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米中貿易巡る懸念が緩和

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ビジネス

米国株式市場=大幅反発、米中貿易戦争巡る懸念和らぐ

ビジネス

米労働市場にリスク、一段の利下げ正当化=フィラデル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中