最新記事

北朝鮮

アメリカの衛星が捉えた金正恩「深刻な事態」の証拠写真

2019年5月22日(水)17時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※NKNewsより転載

米海洋大気庁が作成した朝鮮半島の「干ばつ指数マップ」 NOAA

<北朝鮮の食糧不足説には「疑惑」という指摘もあるが、米海洋大気庁の衛星写真によれば深刻な干ばつに見舞われているのは事実だ>

米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は18日、米海洋大気庁(NOAA)の分析に基づき、北朝鮮で干ばつが深刻化しているもようだと伝えた。

それによると、NOAAは4月後半から今月12日にかけて撮影された衛星写真を1週間単位で分析し、朝鮮半島とその周辺の「干ばつ指数(Drought index)マップ」を作成した。マップは干ばつの程度に応じて「中間」が黄色、「高い」が赤、「深刻」が濃い赤で示されている。

上に掲げた最新のマップ(5月6~12日)を見ると、朝鮮半島北部の多くの地域が赤く染まっているのがわかる。またNOAAは、2012年以降の各年のマップも作成しているのだが、例年と比べても、今年の干ばつが相当に深刻であるのが一目瞭然だ。

<参考記事:【画像】北朝鮮で干ばつが深刻...米衛星マップの各時期の比較

公開処刑を再開

言うまでもなく、干ばつは農業生産に大きな影響を与える。すでに北朝鮮国内からは、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」を彷彿させるような現象が生まれていることが伝えられ始めている。

当局は、国際社会の目を気にしてこのところ控えていた公開処刑を再開した。「苦難の行軍」の時期にも、食い詰めた人々が窃盗などに走るのを抑制しようと、当局は公開処刑を数多く行った。

<参考記事:美女2人は「ある物」を盗み銃殺された...北朝鮮が公開処刑を再開

また、北朝鮮で売買春が拡大したのも当時のことだと言われる。そして今、制裁の影響で収入を得る道を閉ざされた人々が、性売買ビジネスに身を投じ始めているという。

国連世界食糧計画(WFP)と国連食糧農業機関(FAO)は今月に入り、北朝鮮の食糧事情がここ10年で最悪となりそうだとの報告書を発表した。また北朝鮮外務省も2月、国連に対して食糧援助を要請した。

事実ならば極めて深刻な状況である。こうした動きを受けて、南北融和を進める韓国の文在寅政権は、北朝鮮に対する食糧支援の検討に入った。

だが、この食糧不足説には「疑惑」の指摘もある。WFPとFAOの報告書が北朝鮮側の一方的な情報提供に基づいて作成されているほか、そもそもこうした分析のすべての基礎となる総人口について、北朝鮮が大幅な「水増し」をしているのではないか、との主張がかねてからあるのだ。

しかし前述したとおり、北朝鮮社会は経済制裁の影響で相当に弱ってきている可能性がある。また、NOAAが確認したように、北朝鮮が深刻な干ばつに襲われているのは事実だ。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信も15日、全国でひどい干ばつが続いているとして、「今年の1月から5月上旬までの全国平均降水量は54.4ミリで平年(128.6ミリ)の42.3%であり、これは同じ期間の降水量としては1982年(51.2ミリ)以後、最も少なかった」と発表。干ばつは少なくとも今月末まで続くと見られると伝えている。

そうなると、今年の秋の収穫はかなりのダメージを受ける可能性が高い。

金正恩党委員長は今月に入って2度も短距離弾道ミサイルの発射を行い、国際社会に対して強気な姿勢を見せた。だが、いま見え始めている様々な現象が交差し、ひとつの大きな「危機」として出現しても、同じような態度を取り続けることができるのだろうか。

※当記事は「NKNews」からの転載記事です。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

タイ、通貨バーツ高で輸出・観光に逆風の恐れ

ビジネス

自工会会長、米関税「影響は依然大きい」 政府に議論

ワールド

中国人民銀、期間7日のリバースレポ金利据え置き 金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中