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音楽ストリーミング配信は環境に優しくない?

Music’s Carbon Footprint

2019年5月14日(火)16時40分
マット・ブレナン(グラスゴー大学准教授)、カイル・デバイン(オスロ大学准教授)

とはいえ、デジタル時代の到来によって音楽の「脱物質化」が進み、環境により優しくなったと言い切るのは早い。ネットでの音楽視聴に必要なエネルギーの問題があるためだ。

音楽をクラウド上で保存したり再生したりするには巨大なデータセンターが不可欠で、そこでは膨大な電力が消費される。私たちはかつての音楽記録媒体の生産と、近年の音楽デジタルファイルの保存・送信に使われる電力を温室効果ガス排出量に換算して比較した。

すると、77年に1億4000万キロだった温室効果ガスは、2000年には1億5700万キロに増加。さらに16年には、推定2億~3億5000万キロにまで増えていた。しかも、これらはアメリカ国内だけの数字だ。

過去と現在を正確に比較するには(そんなことが可能ならの話だが)、これらに加えて、各時代の音楽再生機器の製造過程で排出された温室効果ガスも考慮に入れるべきだろう。

また、レコードやCDを音楽ショップに配送するトラックの燃料や、再生機器の輸送コストにも目を向ける必要がある。ほかにも録音スタジオでの活動や、楽器の製造過程における温室効果ガス排出、さらにはライブ演奏における過去と現在の排出量の違いなどにも注目すべきかもしれない。つまり、キリがないわけだ。

簡単な解決策はないが

もっとも、こうした分析によって各時代の特徴が浮かび上がったとしても、最も重大な結論は変わりそうにない。それは消費者が音楽視聴のために喜んで支払う金額が今ほど低い時代は過去になく、また音楽を楽しむために現代人が支払っている、目に見えない環境コストが極めて大きいということだ。

私たちの研究の目的は、音楽鑑賞という人生の大きな楽しみを破壊することではない。文化を消費する際の自分自身の選択にもっと関心を持てるよう、人々を後押しすることだ。

現代人はお気に入りの音楽を生み出してくれたアーティストたちに、感謝の気持ちに見合った報酬を返せているだろうか。アーティストとユーザーをつなぐ場として、ストリーミング配信のプラットフォームは本当に正しいビジネスモデルなのか。そして、クラウド経由のストリーミング配信は環境にとって最適な形なのだろうか。

簡単な解決策はない。それでも音楽をめぐるコストと、それが時代とともに、どう変化してきたかに思いをはせることは、私たちが正しい方向に一歩を踏み出す1つのきっかけになるはずだ。

<本誌2019年5月14日号掲載>

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