最新記事

宗教

1日5回流れるモスクの騒音訴えた仏教徒に「宗教冒涜罪」 インドネシア最高裁が上告却下

2019年4月9日(火)19時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

「モスク」からの音に苦情を言って「宗教冒涜罪」とされたメイリアナ被告。写真は昨年8月の裁判のもの Antara Foto Agency - REUTERS

<4月17日に大統領選挙を控えた国では、司法までもが宗教的多数派に「忖度」する事態に>

インドネシア最高裁は4月8日、イスラム教徒の宗教施設である「モスク」から流れる祈祷を呼びかける音声に対し騒音被害を訴えたとされる仏教徒の女性に対する「宗教冒涜罪」での有罪判決の弁護側上告を却下する決定を下した。インドネシア地元紙「リパブリカ」や中東カタールの「アルジャジーラ」などが報じた。

被告の女性は上告却下で、地方裁判所による禁固18カ月の有罪判決が確定することになるが、被告弁護側は再審などさらなる法的手段で「宗教的少数者への差別的判決」を覆す方法を模索するとしている。

スマトラ島北スマトラ州メダン在住の中国系インドネシア人女性メイリアナ被告(44)は、メダンのタンジュン・バライ地区にあるモスクが1日に5回、近隣のイスラム教徒にスピーカーを通して祈りを呼びかける「アザーン」の音声が「うるさくて耳が痛い」として、音量を下げるよう2016年7月22日にモスク側に訴えたとされている。

これに対して周辺のイスラム教徒らが「イスラム教への冒涜である」と同地区の仏教寺院を襲撃し内部を破壊したり、メイリアナ被告の自宅前庭に放火するなどの騒動に発展した。

その後「イスラム指導者評議会(MUI)」の北スマトラ支部が2017年1月に「メイリアナの発言はイスラム教冒涜に該当する」との「ファトワ(宗教令)」を出したことから起訴され、裁判に持ち込まれていた。

裁判ではメイリアナ被告が隣人のカシニ氏に対してアザーンへの不満を漏らしたとされ、出廷した3人の証人もメイリアナ被告のアザーンへの不満を証言するなど被告に不利な証言ばかりが採用されたという。

事件のあったタンジュン・バライ地区は人口18万5000人のうち1万1000人だけが仏教徒で、1998年のスハルト長期独裁政権崩壊の混乱時にも少なくとも11の仏教寺院が襲撃されるなど、多数派のイスラム教徒による横暴が繰り返されているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IBM、コンフルエントを110億ドルで買収 AI需

ワールド

EU9カ国、「欧州製品の優先採用」に慎重姿勢 加盟

ビジネス

米ネクステラ、グーグルやメタと提携強化 電力需要増

ワールド

英仏独首脳、ゼレンスキー氏と会談 「重要局面」での
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中