最新記事

選挙

タイ総選挙、親軍政派と反軍政派の双方が政権樹立を宣言 政局混迷で経済にもリスク

2019年3月28日(木)10時00分

タイ下院総選挙は25日に暫定結果が発表されたが、最終結果の判明には数週間を要する可能性があり、減速傾向にある同国経済にとって新たな不透明要因となっている。バンコクで24日、開票結果を待つ取材陣(2019年 ロイター/Soe Zeya Tun)

タイ下院総選挙は25日に暫定結果が発表されたが、最終結果の判明には数週間を要する可能性があり、減速傾向にある同国経済にとって新たな不透明要因となっている。政局が膠着すれば、財政支出に支障が出て外国人投資家に敬遠されかねない。

2014年の軍事クーデター以来5年ぶりに実施された総選挙は、親軍政政党と反軍政政党の双方が政権樹立を宣言し、投票の不正も指摘されるなど、混乱に見舞われている。結果が明確になるのは数週間後かもしれない。

安定政権に速やかに移行し、経済政策や投資プロジェクトが続行されるとの期待は砕かれた。

ノムラ(シンガポール)のエコノミスト、Charnon Boonnuch氏は「政局不透明感の強い状態が続くだろう。政権樹立が長引き、難航しそうだからだ。投資の見通しが弱まるため、経済成長の下振れリスクになる」と話した。

クーデターを主導したプラユット首相の続投を望む親軍政政党と、失脚したタクシン元首相派の政党はいずれも、政権を樹立できると宣言している。

カシコンバンクの資本市場調査責任者、Kobsidthi Silpachai氏は、政権移行が遅れれば「財政支出の実行に悪影響が及び、貨幣の流通速度が落ちる」と述べた。

財政支出はただでさえ目標を下回り、民間投資の足かせとなっている。輸出は低迷し、多額の家計債務によって個人消費は抑制されているため、経済成長の鍵を握るのは民間投資だ。

政権移行に手間取れば、タイ東部工業地帯への投資誘致を目指す450億ドル規模の経済プロジェクト「東部経済回廊」にも遅れが出かねない。

ファンドマネジャーらによると、親軍政政党とタクシン派のいずれが政権を掌握しても、政権は不安定になり、経済や金融市場に悪影響を及ぼすとの懸念もある。

アセット・プラス・アセット・マネジメントのファンドマネジャー、Kamonyos Sukhumsuwan氏は「向こう3、4カ月はタイ株式市場の重しになりそうだ」と予想。市場に人気のある親軍政政党が政権を樹立できたとしても、「長期的には安定性にリスクがあるし、政権運営を巡る難しさがある」と語った。

タイの主要株価指数は25日に1.2%下落した後、26日には0.4%反発した。しかし外国人投資家は売り越しを続けており、年初からの売り越し額は累計129億バーツ(4億07710万ドル)に達した。

アジア通貨が総じて上昇する中、タイのバーツは26日、ドルに対して0.2%下落した。

タイの2018年の成長率は4.1%と、6年ぶりの高さを記録したが、フィリピンの6.2%、インドネシアの5.17%などに比べると後れを取っている。

中央銀行は先週、世界的なリスクが高まっているとして、タイの19年の成長率見通しを従来の4.0%から3.8%に引き下げた。下方修正はこの3カ月で2度目。

(Orathai Sriring記者 Satawasin Staporncharnchai記者)

[バンコク 26日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、米株高を好感 ファストリ

ワールド

訂正ブラジル大統領、米50%関税に報復示唆 緊張緩

ワールド

英首相がトランプ氏と会談へ、月内のスコットランド訪

ワールド

米国務省、人員削減計画を近く開始 影響受ける職員に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中