最新記事

韓国事情

韓国で電動自転車シェア開始、ヘルメット貸し出し失敗事例が気になる理由

2019年3月25日(月)18時00分
佐々木和義

ソウル・弘大入口駅の「タルンイ」 撮影:佐々木和義

<韓国でIT大手のカカオが電動自転車シェアサービスを開始した。一方、昨年、自転車利用者にヘルメットが義務付けられていて、これが新たな問題を引き起こしている>

自転車利用者が増えている韓国の首都圏で、2019年3月6日からソーシャルネットサービス(SNS)を運営するカカオが電動自転車シェアリングの試験サービスを開始した。

特定の貸出し返却スポットは設けず、利用者はアプリを使って最寄りの自転車を探して、1万ウォンのデポジットを払い込む。最初の15分は1000ウォン、以降5分ごとに500ウォンが引き落とされ、乗り終えた自転車は通行の邪魔にならない場所に乗り捨てるというシステムだ。仁川市に400台、京畿道城南市に600台を配置し、年内には地域を拡大して3000台まで増やす計画という。

ソウル市が始めた自転車シェアリングサービス「タルンイ」

そもそも韓国には坂が多く平坦なエリアが限られる都市が多い。また、モータリゼーションの急速な発達に伴って、自転車が安全に通行できる道路が少なくなり、自転車は自動車やオートバイを買うお金がない人の乗り物とみなされるようにもなった。

しかし、2000年代に入るとサイクルスポーツを楽しむ人が増えはじめ、2009年には、当時の李明博政権は雇用創出を目的とする4大河川整備事業に合わせて自転車道を整備する政策を打ち出し、仁川からソウルを経て釜山に至る700キロメートルの自転車専用道が2012年4月に全通した。

同時期にソウル市も地下鉄に自転車を持ち込む実験を開始する。編成の両端に自転車を積載するスペースが設けられ、土曜、日曜と祝日には自転車を携行して乗車ができる。

サイクリングスーツに身を包んだ老若男女が自転車を抱えて地下鉄で移動し、サイクリングを楽しんだ後、再び自転車を地下鉄に持ち込んで自宅に帰る姿は週末の日常光景となっている。なお、折り畳み自転車は平日も多くの区間で持ち込みが可能だ。

jitensha IMG_5007.jpg撮影:佐々木和義

さらに、ソウル市は2015年10月から自転車シェアリングサービス「タルンイ」を開始した。当初は貸出返却スポットを地下鉄駅の近くに設置するなど、公共交通機関を補完する意味合いが強い市民向けサービスだったが、2017年にはスポットを拡大し、会員登録が不要になるなど、旅行者にも利用の幅が広がっている。

ヘルメットの着用義務化が引き起こした問題

こうして自転車の利用は拡大したが、同時に事故が急増した。自転車が絡む事故は年間1万5000件を超え、死亡者が300人近くに達したのだ。自転車の死亡事故はおよそ70%が頭と顔への衝撃で、ヘルメット未着用者の致死率は着用者と比べて2倍ほど高い。そこで政府はヘルメット着用を義務付け、2018年9月から施行されたが、このヘルメット着用義務化が新たな問題を引き起こした。

管理人が貸出しと返却を行う釜山や慶州と違って、ソウルのタルンイは無人で運営されている。ヘルメットの管理方法として、紐で自転車に結びつける案が出されたが、利用者の首にひっかかるなど新たな事故の危険があり、また見知らぬ他人が被って汗が付着したヘルメットの使用を嫌がる人も少なくない。また、タグをつけて位置を追跡するシステムを検討したが、通信費だけで年間12億ウォン(約1億2000万円)の費用がかかることがわかり断念した。

市は利用者の良心に委ねることを決め、貸出スポットに設置する保管箱等に入れて、タルンイ利用者が自由に使うことができる方式を採用するが、これが想定外の結果となった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、次期5カ年計画で銅・アルミナの生産能力抑制へ

ワールド

ミャンマー、総選挙第3段階は来年1月25日 国営メ

ビジネス

中国、ハードテクノロジー投資のVCファンド設立=国

ワールド

金・銀が最高値、地政学リスクや米利下げ観測で プラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中