最新記事

極右

ネオナチと仮想通貨の意外な関係

Neo-Nazis Bet Big on Bitcoin (And Lost)

2019年3月22日(金)18時19分
デービッド・ジェラルド

カギ十字の前でナチス式の敬礼をする白人至上主義者のグループの儀式(2018年4月21日) Go Nakamura-REUTERS

<通常の金融取引から締め出された極右勢力が、仮想通貨を資金源にしているのはよく知られているが、反ユダヤ的陰謀説を信じるなど思想的にも似通っている>

ニュージーランド中部の都市クライストチャーチにあるモスクで3月15日、ネオナチの男が銃を乱射し、50人を殺害する事件が起きた。容疑者のブレンドン・タラントは、犯行直前にネット上に長文の犯行声明を発表していた。そのなかに、仮想通貨で儲けていた、とくにビットコネクトというのちに破綻した詐欺コインで大金を稼いだ、という話があった。

犯行声明の他の部分もそうだが、仮想通貨についての話はほぼ間違いなくメディアを惑わせるために意図的に入れたでたらめだ。

こんなでたらめが本当らしく響く理由は、仮想通貨は極右勢力にとってお気に入りの資金源になっているからだ。運用にはそれほど成功していないのだが、白人至上主義者が仮想通貨に手を出していることは、2017年のビットコイン・バブルの時期から知られていた。

仮想通貨が新たな決済手段に

ビットコインは、独自のデジタル通貨を使用する分散型の決済システムだ。ビットコインの値段は変動し、リスクを伴う(ピークの2017年12月には1コインあたり2万ドル近くまで上昇したが、2019年3月現在は4000ドル前後になっている)。だが誰かにビットコインを送金するのは完全に自由で、第三者が妨害することはできない。

極右勢力がビットコインに興味を持ったのは、既存の金融機関が彼らと取引しなくなったからだ。2017年8月、バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者と人種差別反対派の大規模な衝突が発生、反対派の女性1人が死亡した。この事件をきっかけに、オンライン決済大手のペイパルやクレジットカード会社は、オルト・ライトの活動団体との取引を拒むようになった。

そこで極右勢力は決済の代替手段としてビットコインの利用を勧め始めた。目立ちたがりの白人至上主義者リチャード・スペンサーは、ビットコインは「オルト・ライトの通貨だ」とまで宣言した。その実彼自身は、ビットコインを買ったこともなかったのだ。

ネオナチがビットコインに惹かれたのは実用性だけでなく、イデオロギー的な接点があったからかもしれない(ただしビットコイン支持者の大半は、クライストチャーチのモスクを襲ったような憎悪とテロには憤り、ネオナチに対しては軽侮しかもたないような人々だ)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

黒海でロシアのタンカーに無人機攻撃、ウクライナは関

ビジネス

ブラックロック、AI投資で米長期国債に弱気 日本国

ビジネス

OECD、今年の主要国成長見通し上方修正 AI投資

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、11月は前年比+2.2%加速 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 6
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 7
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中