最新記事

環境問題,特集プラスチック危機

またもプラゴミがクジラの命奪う 胃に40Kgのゴミ飲み込み餓死

2019年3月20日(水)19時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

インドネシア、マレーシアでも同様の被害

今回のフィリピンのアカボウクジラの例だけでなく、東南アジアでは海洋に投棄されたプラゴミによる海洋生物への被害が最近相次いでいる。

2018年11月18日にはインドネシア・スラウェシ島東南スラウェシ州ワカトビにある国立公園内の島の海岸に長さ9.5メートルのマッコウクジラの死骸が流れ着き、解体の結果、胃の中から約5.9キログラムのプラゴミが回収された(「死んだクジラの胃から大量プラスチックごみ 深刻なごみ対策にインドネシア、バスのフリーライド導入」)。

 世界自然保護基金(WWF)インドネシア支部などによると、この回収された約5.9キログラムのプラゴミには硬いプラスチック片19個、プラスチック製カップ115個、ビニール袋25枚、日にビニール製ヒモ3.26キログラム、ベットボトル4個、ビーチサンダル2足などが含まれていたという。

また2018年5月にはマレーシアで衰弱したゴンドウクジラを保護したところ、ビニール袋5枚を吐き出してその後死亡したことが報告されている。このほかタイではクジラに加えてウミガメ、イルカなど年間で300頭以上がプラゴミを食べたことが原因とみられる死亡例も報告されているなど被害は年々深刻化しているのが実状だ。

世界有数のプラゴミの海洋投棄国

環境団体で米国のNGO組織「オーシャン・コンサーバンシー」は中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイによるプラゴミの海洋投棄が世界の60%を占めているという調査結果を明らかにしている。つまり東南アジアの4カ国と中国が世界の半分以上のプラゴミを海洋に投棄していることになり、当該国のプラゴミ対策、海洋投棄対策が近年の環境問題の急務となっている。

このうちインドネシアのジャカルタなどでは3月1日から一斉にコンビニやスーパーなどの小売店でのレジ袋の有料化に踏み切ったが、環境森林省などは「有料化はプラゴミ削減の根本的解決にはならない」と反発する事態となっている(「ゴミ対策でレジ袋を有料化開始 インドネシア、なぜか環境省が慎重論」)。

地域各国の共同での取り組みが急務

フィリピン政府は海洋環境保護やプラゴミ対策が重要な課題であることはたびたび言及し、急務であることは認識しているものの、その政策が具体的な効果を上げるまでは進んでいないのが現状である。

そんななか2019年1月にはゴミの不法投棄や汚水の流入で水質汚染が深刻化している首都マニラに面したマニラ湾の浄化計画を発表し、1月27日には約1万人の市民が参加して海岸などのゴミ拾いを実施した。

フィリピン環境省によるとマニラ湾には1日約1,500トンのゴミが不法に投棄され、水質汚染に拍車をかけているという。

かつては東南アジアでも有数の美しい夕陽を見ながら水遊びができたマニラ湾を再び取り戻そうと、ようやく行政が動きだしたわけだが、こうした環境対策が全国レベルで実施されるにはなお時間が必要とみられている。

そうしている間にもフィリピンのみならず東南アジア各国の海洋で、クジラやイルカ、ウミガメなどがプラゴミの被害に遭うのは確実だ。それぞれの国が個別に対応するだけでなく、海洋に面した東南アジア諸国が一致して有効策を協議することが求められている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪BHP、上半期利益が22%増 銅・鉄鉱石など好調

ワールド

豪中銀、2月利上げ後の金利見通し不透明=議事要旨

ビジネス

インド、1月のモノの貿易赤字は346.8億ドル 3

ワールド

トランプ氏、イラン核協議に「間接的関与」 合意に期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したスーツドレスの「開放的すぎる」着こなしとは?
  • 2
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 10
    アメリカが警告を発する「チクングニアウイルス」と…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中