最新記事

動物

空港に残されたスーツケースから絶滅危惧種含むカメ1529匹 フィリピン密輸トレンドは希少動物?

2019年3月7日(木)17時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)


空港に残されたスーツケースにはグルグル巻きにされたカメたちが...... euronews (in English) / YouTube

過去には警察官関与や300種もの大量密輸も

フィリピンでは同じニノイ・アキノ国際空港で2018年3月13日にIUCNのレッドリストに分類されている動物を含む約300種の外来動物を不法に持ち込もうとした4人の容疑者が逮捕される事件も起きている。このときはオーストラリアやインドネシア、パプアニューギニア原産のフクロモモンガ、ワラビー、ベニフウチョウ、キバタン(オウムの1種)など市場価格で約2,000万円相当が押収され、フィリピンで生きた野生動物の保護押収事件としては過去最大規模となり、大きなニュースとなった。

また2016年2月には押収した希少動物(メガネザル、オオトカゲ、ホカケトカゲ、フクロウ、ワシミミズクなど)を発泡スチロール製のコンテナに隠匿し、日本に密輸していた空港警察官が逮捕されている。

さらに2012年4月には香港当局から同年2月にフィリピンから密輸された希少種のカメが返還された。いずれもフィリピンで捕獲、密輸出されたとみられるフィリピンヤマガメ、マレーハコガメなどで、31匹は生きたまま返還されたが、5匹は香港で保管中に死んだという。

ニノイ・アキノ国際空港の税関では、検査前に乗客の荷物に実弾を忍び込ませては検査で発見したふりをして多額の罰金を要求する事案が数年前まで続発、税関職員や警察官が起訴されている。

このように税関職員、空港警察官が腐敗し、汚職や不正に手を染めるケースも多く、動物の密輸がフィリピンで頻発する背景として、賄賂で見逃す場合があるとみられており、国家警察では職員の異動や再配置で刷新と綱紀粛正に努めているという。

一時流行の「オミヤゲ」から巧妙・悪質化

フィリピンの英字紙「インクワイアラー」などによると今回押収された1529匹のカメについては不法輸出された香港当局に引き取り交渉をしているが、香港が引き取らない場合はフィリピン国内の保護施設で飼育することになるという。

フィリピンは自然が豊かで希少な動物、植物が多く存在することに加えて、税関、警察などがドゥテルテ大統領の強硬な麻薬対策を受けて特に薬物の持ち込み、持ち出しには厳重な監視の目を光らせている。

そのため薬物以外に密輸される希少動植物や申告・課税が必要な高額の貴金属、煙草、酒類、さらに禁止物である刃物などの武器類に関してチェックが比較的緩やかともいわれている。発見された場合も正規の手続きによらずに担当係官への賄賂で済む場合も多いとされる。

インドネシアのジャカルタやバリ島、マニラなど東南アジアで一時流行した税関職員による「オミヤゲ」という袖の下要求は、今では例外的になっているというが、一方では乗客の荷物に実弾を隠しこんでそれを摘発する例のように、より巧妙、悪質化している側面もある。税関当局者、警察官の質的向上と順法精神の徹底が急務となっている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUに8月から関税30%、トランプ氏表明 欧州委「

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 6
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 7
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 8
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 9
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 7
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中