最新記事

金正恩

北朝鮮、米朝会談前にベテラン排除へ 交渉チーム刷新した訳は?

2019年2月22日(金)18時15分

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(写真)は、トランプ米大統領との2回目の首脳会談を前に、ベテラン外交官を政策決定プロセスから排除しつつある。2018年6月、シンガポールで行われた米朝首脳会談で撮影(2019年 ロイター/Jonathan Ernst)

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、トランプ米大統領との2回目の首脳会談を前に、ベテラン外交官を政策決定プロセスから排除しつつある。

最近になって長らく職務に携わっていた何人かの外交官が亡命したり、スパイの疑いが浮上したことで、不信感を強めているためだ。韓国の当局者や専門家がこうした見方を示した。

正恩氏は、父や祖父の代から働いてきた多くの外交官を更迭し、その代わりにより若手のアドバイザーを起用している。とりわけ最も重大な人事は、これまであまり名前が知られていなかった金革哲(キム・ヒョクチョル)氏を米国との事務レベル交渉を取り仕切る国務委員会対米政策特別代表に抜てきし、米国側の窓口役のビーガン国務省北朝鮮政策特別代表のカウンターパートにしたことだ。

ある韓国政府の高官によると、キム・ヒョクチョル氏は以前、駐スペイン大使だったが北朝鮮による一連の核・ミサイル実験で2017年に国外退去処分となり、その後は正恩氏がトップに座る国務委員会で働いていた。

昨年6月のシンガポールでの第1回の米朝首脳会談まで、交渉を主導してきた崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官の役割を、キム・ヒョクチョル氏が担う形になっている。

先の韓国政府高官は「(北朝鮮では)多くの外交官は存在が無視されている。国内ではし烈な足の引っ張り合いが起こり、彼らがより豊かな資本主義国の暮らしを経験したことから、イデオロギーの面での忠実さが疑われている。キム・ヒョクチョル氏もキャリア外交官ではあるが、忠誠心の試験に合格して対米交渉のキーマンになれたようだ」と話した。

粛清

キム・ヒョクチョル氏の「出世」は、2016年の太永浩(テ・ヨンホ)駐英公使の亡命や、昨年11月の駐イタリア大使代理行方不明事件が、ある程度影響している。

2人の関係者がロイターに語ったところでは、昨年初めまで外務次官として対米外交を任されていた韓成烈(ハン・ソンリョル)氏が米国のスパイとして粛清されたことも、正恩氏のベテラン外交官への不信感を増幅させた。ハン・ソンリョル氏は米国で最も有名かつ敬意を持たれていた北朝鮮外交官の1人だったが、過去1年間は公式の場に一切姿を見せておらず、国営メディアの言及があったのは昨年2月が最後だ。

韓国統一省は、先月公表した2019年版の北朝鮮主要人名録からハン氏の名前を削除している。

米シンクタンクのスティムソン・センターで北朝鮮首脳部の動向を専門に研究するマイケル・マドン氏は、2人の関係者からハン氏がスパイ容疑で訴追され、昨年7月に姿を消したという話を聞いたと明かした。亡命したテ・ヨンホ氏は、ハン氏は強制収容所に送られた公算が大きく、場合によっては既に処刑された可能性があるとみている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日銀会合後の円相場、金利反応が焦点に 相

ワールド

焦点:高まる米金融政策の不透明感、インフレ・FRB

ワールド

アングル:来るAI端末競争、オープンAIはまず軽量

ワールド

マクロスコープ:政府の成長戦略会議、分科会でも積極
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中