最新記事

日韓関係

「史上最悪」日韓関係への処方箋

To Rebuild Relations

2019年2月21日(木)19時40分
クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)

日韓はこの際、本音をぶつけて議論をするべき(写真は18年5月に文在寅大統領を官邸に出迎えた安倍首相) Kazuhiro Nogi-REUTERS

<一方的な主張をぶつけ合い建設的な議論ができない――根本的な原因は限界を迎えた「65年体制」にある>

日韓関係が「史上最悪」を更新している。今度は韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長の「天皇謝罪」という火に油を注ぐ発言だ。知日派で文在寅(ムン・ジェイン)大統領の側近という立場からすれば、あまりに無責任な発言といえよう。ただ韓国では、さほど影響力のない人の発言に安倍晋三首相まで直接怒りを表明することは、オーバーだと捉えられている。

最近の日韓は、相手を否定し、売り言葉に買い言葉で本筋からずれた言い争いがエスカレートした状態だ。葛藤の背景には北朝鮮問題がある。

例えば日本政府は、南北融和で従来の日米韓の枠組みが崩れ中国の影響力が増大し、日本の存在感が相対的に下がることを懸念している。拉致問題と日本の安全保障上の懸案がないがしろにされることにも反対だ。

だが韓国からすれば、分断体制を何としても克服したい。かつての独裁政権も現在の左右の政治対立も周辺大国からの「軽視」も、根源には分断体制があるとされる。そして、分断の淵源には植民地支配があり、ドイツと違って日本の代わりに分断されたという強い意識がある。よって、南北融和に非協力的な今の日本に失望している。

問題の根源には、これまでの日韓関係を支えてきた「65年体制」が限界に達したことがある。1965年の日韓国交正常化は、ベトナム戦争の最中、米国の冷戦戦略の下に日韓両政府の妥協の産物として、両国民のコンセンサスを得ないまま実現した。それは日韓の圧倒的な力の差、冷戦という接着剤と米国という仲介者、歴史問題の棚上げ、ポストコロニアルな人脈、そして日本の一定の贖罪意識によって成り立っていた。

それから時代は大きく変わった。韓国は民主化され国力は増大し、南北・米朝が対話を始めた。日本では植民地期の記憶は風化し、韓国に一片の贖罪意識も持たない人が発言力を増した。

炎上覚悟で本音の議論を

家も50年たてばリフォームが必要となるように、日韓関係もリビルディング――時代に合った関係の再定義が必要だ。韓国の左派の代表的論客、金於俊(キム・オジュン)は「過去の歴史、きれいさっぱり終わらせよう」「ポストコロニアルの植民根性、慎重に清算しよう、みっともない」と訴えた。日本が経済大国で距離が近いからではなく日本を払拭しないと被害者意識に拘泥する韓国人が幸せになれないからだ。日本も戦略的利害以外に韓国の存在意義をどう再発見するかが重要だ。

65年体制の最たる限界は、棚上げにした歴史問題がほこりをかぶり、棚下ろしの必要が生じた点にある。日韓基本条約および請求権協定には、日中共同声明にはある反省の表現もなく、署名したのも外相で和解には程遠い内容だ。これを今後も日韓関係の「基本」にすべきかは大いに議論の余地があるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中