最新記事

人権問題

ベトナムの人権活動家、当局がタイで拉致? 米朝会談が影響との推察も

2019年2月7日(木)17時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

1月26日以降、音信不通になり当局に拉致されたとみられるトゥルオン・ドゥイ・ナット氏 フェイスブックより

<2月末に2度目の米朝首脳会談が行われる場所として選ばれたベトナム。当局は世界の注目が集まる前に、人権問題など都合の悪いことを隠そうとやっきになっている>

ベトナムの著名な人権活動家でブロガーでもあるトゥルオン・ドゥイ・ナット氏がタイのバンコクで消息不明になっていることが明らかになり、関係者の間ではナット氏がベトナム治安当局者によって「拉致」された可能性が指摘されている。2度目の米朝首脳会談を2月27、28日に控え、ホスト国となったベトナムの人権問題に対する強硬姿勢が改めて浮き彫りとなっている。

ナット氏が定期的に寄稿していた米国メディア「ラジオ・フリー・アジア」(RFA)の関係者によると、1月26日に編集者が連絡を取ったのを最後にナット氏と連絡が取れなくなり、消息不明の状態が続いているという。

ベトナムは共産党政府により報道の自由が著しく制限されており、ナット氏は主にベトナムの人権問題、表現や報道の自由に関して情報発信を続けていた。2014年にはベトナム政府を批判したとして禁固2年の実刑判決で服役したこともある。

ナット氏はベトナムからタイ・バンコクに活動拠点を移し、同時にバンコクにある国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に難民申請を行っていた。連絡が取れなくなったのは、このUNHCRへの難民申請を提出した翌日から、との情報もあり、なんらかの関連があるとみられている。

RFAのリビー・リウ氏は「我々はナット氏の所在と身の安全に関して特に深い関心をもっている。危険に直面していないかどうかだけでも情報を求めている」と話し、米国務省にも連絡して、情報提供を呼びかけたとしている。

ショッピングモールで拉致か

RFAやベトナム人権活動家などが入手した情報などを総合すると、ナット氏はバンコク北部ランシットにある大規模ショッピングモール「フューチャーパーク」内のアイスクリーム店にいたところを何者かによって身柄を拘束され、その場から連れ去られたという。

そしてナット氏の現状に関してベトナムの人権団体は「生存はしているが、ベトナム当局の保護下にある。彼がまだタイにいるのか、すでにベトナム国内に連行されたのかはわからない」と話しており、消息不明事件へのベトナム当局者の深い関与を示唆している。

もしこうした「拉致」が事実とすれば、タイ領内でベトナムの治安当局関係者がタイの国内法や国際法を無視する形でナット氏という個人を拘束、拉致、そしてベトナムに連行するような事態は「タイの主権侵害」にもあたり、「到底容認できる事態ではない」(ベトナム人権活動家)としている。

また2月末のベトナムでの開催がトランプ米大統領によって発表された2回目の米朝首脳会談との関係も取りざたされている。会談を前にベトナム治安当局が国内外の活動家やブロガーの一斉摘発に乗り出した可能性があるというのだ。

「有刺鉄線の前で、道を進む」と記されたナット氏のフェイスブック記事。フェイスブックは1月24日にベネズエラのデモについて投稿した記事が最後になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

外貨準備のドル比率、第3四半期は56.92%に小幅

ビジネス

EXCLUSIVE-エヌビディア、H200の対中輸

ワールド

25年の中国成長率、実際は2─3%台か 公式値の半

ビジネス

利下げしなければ、景気後退リスク増大─ミランFRB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中