最新記事

南米

混迷のベネズエラを切り裂く2人の大統領

A New Day in Venezuela?

2019年2月1日(金)17時00分
キース・ジョンソン、ロビー・グレイマー(フォーリン・ポリシー誌記者)

0201gensen2.jpg

独裁色を強めるマドゥロは「不正選挙」を経て2期目に入ったばかりCARLOS GARCIA-REUTERS

反撃に出るマドゥロ政権

チャベスが掲げた「ボリバル革命」以来、ベネズエラ最大の産業である石油産出は汚職にまみれて壊滅状態に陥っている。深刻なハイパーインフレと食料品不足、病気の蔓延が重なり、豊かな石油埋蔵国の経済は今や崩壊寸前だ。

経済の混迷と政治的混乱から逃れるため、国外に脱出したベネズエラ人は人口の1割近い300万人に。そのうち100万人以上が難民や移民として隣国コロンビアに逃れている。

アメリカをはじめとする多くの国がグアイドの暫定大統領就任を承認したからといって、具体的にどのような影響が生じるのかは明らかでない。トランプ政権の反応を受けて、マドゥロは即座にアメリカとの国交断絶を宣言。ベネズエラ国内にいるアメリカ人大使館員に72時間以内の国外退去を求めた。

今回の動きは多国籍企業、なかでもエネルギー企業に大混乱をもたらす可能性もある。原油購入や生産契約の締結に当たって、ベネズエラ政府内の誰を相手にすればいいのか、判断できなくなるからだ。自分こそが唯一の正当な大統領だと主張する政治家が2人いるせいで、軍や情報当局などの政府機関がジレンマに陥ることも間違いない。

選挙操作や司法介入、政敵の投獄を行い、反体制派を繰り返し武力で弾圧してきた独裁政権を過去のものにし、民主主義的な政権移行に向けた針路を描くこと――それこそがグアイドと反マドゥロ勢力が直面する課題だろう。

グアイドと国会は軍高官に、マドゥロ側と手を切れば訴追しないと約束した。一方で専門家の間には、マドゥロと側近は終焉に向かう過程でグアイドの逮捕を目指し、反体制派つぶしを推し進めるのではないかと懸念する声がある。

「マドゥロ政権は武力を使うと脅すはずだ。この手法はチャベスとマドゥロ両政権の下で、反体制派を畏縮させ、恐怖心を植え付けるのに効果を発揮してきた」。ワシントンのシンクタンク、インターアメリカン・ダイアログのマイケル・シフター会長はそう指摘する。

「チャベスとマドゥロは優れた統治者ではないが、反体制派の分断には優れた手腕を発揮してきた。それこそ、彼らが一貫して出してきた『成果』だ」

分断された国家で、激しく敵対する各派をどう和解させるか。慎重かつ入念な策がなければ、マドゥロ政権はすぐに倒れるとの予想は見当違いになりかねないと、シフターは警告する。

「米政界では、いずれ暫定政府が誕生して現状が解決し、現政権は崩壊するとのシナリオが描かれている。だが、2つの物事の間には筋道が必要だ。(アメリカの政治家は)不透明な論理を飛躍させている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中