最新記事

サイエンス

ツルツルとフサフサの違いを生むカギは

Hairless vs. Hairy

2019年1月12日(土)15時30分
カシュミラ・ガンダー

なぜ体には毛がフサフサのところとツルツルのところがあるのか Jonathon Rusnak-Eyeem/GETTY IMAGES

<毛が生えていない場所にも発毛タンパク質は存在する? 新研究が明らかにする「希望の光」>

なぜ私たちの体には無数に毛が生えているフサフサの部分と、手のひらや足の裏のようにツルツルの部分があるのか。それは誰もが持つ特別な分子のせいだと、新たな研究が明らかにしている。

体表のうち毛が生えていない領域では、特別なタンパク質DKK2が分泌され、体毛の成長を促すWnt(ウィント)シグナルをブロックしてしまう。科学系学術誌セル・リポーツに発表された論文によると、進化の過程でDKK2の発現場所に違いが生じ、それが動物によって異なる発毛パターンをもたらし、生物の多様性を育んできた。

「体毛のない領域では、Wntの働きを阻害する因子が自然に生成されていることが分かった」と、研究論文の執筆を担当したペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院のセーラ・ミラー教授(皮膚学)は語る。

「Wntシグナルが(毛を産生する)毛包の成長に重大な役割を果たすことは既に分かっていた。それをブロックすると体毛がなくなり、そのスイッチを入れると体毛の生成を活発化させることができる」

ミラーら研究チームは、ヒトの手首の肌と似ているマウスの手首周辺を分析した。すると、毛がたくさん生えている領域に比べて、手首周辺はDKK2の発現率が高かったという。一方、ウサギやホッキョクグマなど手首周辺にもかなりの毛が生えている哺乳類は多い。そこでウサギの手首付近の肌を調べたところ、DKK2の発現率はマウスよりも低かった。

「Wntは毛のない領域にも存在する。その働きが抑制されているだけだ」とミラーは語る。

毛髪の再生につながる研究

研究チームは、今回の発見が毛髪育成の研究に貢献することを期待している。大ケガややけどで、毛髪を失った人の治療法改善につながるかもしれない。

実際、毛髪や体毛の研究に取り組んでいる専門家は少なくない。18年5月には、米国立衛生研究所(NIH)とアラバマ大学バーミンガム校の研究チームが、毛髪が白くなるのは免疫システムのせいだという新説を発表して注目を浴びた。

毛髪に色を与えるメラニンは、メラニン形成細胞から成り、毛髪が抜けると、毛包幹細胞によって毛包にメラニン形成細胞が供給される。研究チームは、何らかの免疫反応が毛包幹細胞の機能にダメージを与え、白髪化を促すことを示した。

「この分野の研究が治療や毛髪を再生する新しい方法の発見につながってくれればと思う」と、ミラーは語る。

<本誌2019年01月15日号掲載>

※2019年1月15日号(1月8日発売)は「世界経済2019:2つの危機」特集。「米中対立」「欧州問題」という2大リスクの深刻度は? 「独り勝ち」アメリカの株価乱降下が意味するものは? 急激な潮目の変化で不安感が広がる世界経済を多角的に分析する。

ニューズウィーク日本版 韓国新大統領
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月10日号(6月3日発売)は「韓国新大統領」特集。出直し大統領選を制する「政策なきポピュリスト」李在明の多難な前途――執筆:木村 幹(神戸大大学院教授)

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏「ウクライナは和平望まず」、直接協議直前

ワールド

欧州委とECB、ブルガリアのユーロ導入承認 26年

ワールド

ウクライナ、ロシアとの首脳会談実現までの停戦提案 

ワールド

トランプ減税法案による債務推計増加額、議会予算局が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 7
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 10
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中