最新記事

中国共産党

「中国のカショギ」を救うため国際社会がすべきこと

2019年1月4日(金)09時30分
キャスリーン・マクラフリン

2014年に中国国内で国際的な写真展に参加した際の盧広 REUTERS

<大規模弾圧が続く新疆ウイグル自治区で、中国出身の著名フォトジャーナリストが拘束された>

中国出身の報道写真家、盧広(ルー・コアン)は11月初め、米ニューヨークの自宅から中国西部の新疆ウイグル自治区に向かった。古都カシュガルで、アマチュア写真家を対象とする講習会に出るためだった。

盧は、炭鉱労働者や産業公害が原因で癌を患う人々など、中国の社会的弱者を被写体に選ぶことが多い。逆境にある庶民の暮らしを克明に映し出し、世界報道写真コンテストでも3度の受賞歴がある。

そんな著名フォトジャーナリストがウイグル入りしたことで、中国政府の警戒の網にかかったのだろうか。盧が同行者らと共に、中国版KGBとも称される国家安全部に身柄を拘束されたことが、12月10日に確認された。具体的な被疑事実は明らかになっていないが、これまでの盧の活動からして中国政府に危険因子と見なされていても不思議ではない。

1961年生まれの盧は、浙江省の絹紡績工場で働いていた若い頃にカメラを学び独立した。結婚式や記念写真の撮影で稼いだ資金で調査報道の作品に取り組んだ。中国の一般的な写真家は検閲に引っ掛からない無難な出版物のために仕事をするものだが、彼は撮りたいものを撮るために報道写真家として一本立ちした珍しい存在だ。

彼を一躍有名にしたのは02年。エイズ禍に襲われた河南省で撮影した写真を公表し、中国政府がひた隠しにしていた惨禍を白日の下にさらしたときだ。エイズで亡くなった両親の墓前で香をたく13歳の少年、夫を抱いて看取る妻、幼い子供7人が1列に寝かされる児童養護施設――。国内で調査報道に携わるジャーナリストたちがこの問題を最初に伝え、盧の写真も国内で公表されて衝撃を呼んだ。

エイズ禍を暴かれた恨み

盧はこの年の世界報道写真コンテストにこれらの作品を送るも、審査員が写真を手にすることはなかった。エイズ被害の惨状を如実に伝える写真を明るみに出されたくない中国当局が手続きを妨げたからだ。だが翌年、盧は同じ作品群で再応募し「現代社会の問題」部門で大賞に輝き、最も影響力のある中国人報道写真家として定評を得た。

中国でエイズが流行した原因は、政府が血液事業で貧困者に売血を促したことにある。数え切れないほどの犠牲者を出した当局の面目丸つぶれのスキャンダルだったが、関係者の多くは今も共産党内で出世を続ける。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債務急増への懸念、金とビットコインの価格押し上げ

ワールド

米、いかなる対イラン作戦にも関与せず 緊張緩和に尽

ワールド

イスラエル巡る調査結果近く公表へ、人権侵害報道受け

ビジネス

利上げの可能性排除せず、経済指標次第=米シカゴ連銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中