最新記事

EU

仏マクロン政権「黄色いベスト運動」対応で財政拡大 EU各国に波及の可能性も

2019年1月20日(日)12時00分

1月11日、フランスのマクロン政権に抗議する黄色いベスト運動を受け、同国政府が国民の不満を抑えようと財政支出を増やす結果、ユーロ圏全体に財政拡大路線が広がる可能性がある。パリで12日撮影(2019年 ロイター/Christian Hartmann)

フランスのマクロン政権に抗議する黄色いベスト運動を受け、同国政府が国民の不満を抑えようと財政支出を増やす結果、ユーロ圏全体に財政拡大路線が広がる可能性がある。

ただでさえ欧州中央銀行(ECB)による金融緩和の終了に神経をとがらせているユーロ圏債券市場で、国債の供給が増えることになりそうだ。

各国の公的債務が増大すれば、ECBの利上げ計画にも支障となりかねない。

マクロン大統領は抗議運動を受け、年金生活者向けの減税と最低賃金の引き上げを約束した。これにより財政支出は80億─100億ユーロ増え、財政赤字の対国内総生産(GDP)比率はEUが上限と定める3%を突破する可能性がある。

イタリアとスペインも既に2019年度の財政支出を増やす計画を立てており、ドイツでさえ長年にわたる保守的な財政政策を見直そうとしている。

ピクテ・ウェルス・マネジメントのストラテジスト、フレデリック・ドュクロゼット氏は「イタリアとフランスの財政が柔軟化するなら、新時代の始まりだ。財政政策が転換点を迎える」と言う。

フランス10年物国債利回りのドイツ国債に対するスプレッドは、半年前に比べ2倍の50ベーシスポイント(bp)近くまで開き、過去1年8カ月で最も大きくなっている。

ユーロ圏全体に波及

ユーロ圏の債務が直ちに憂慮すべき水準になるわけではない。欧州委員会の試算では、ユーロ圏全体の財政赤字の対GDP比率は昨年が0.6%、今年は0.8%となる見通し。アナリストによると、フランスの財政支出増加によってこれが0.1%ポイント高まる。

より心配なのは、ユーロ圏第2、第3位の経済大国であるフランスとイタリアの財政拡大が前例となり、他の国々も追随する可能性だ。ただでさえ多額の債務を抱え、成長の鈍い国々が借り入れを増やすことになる。

資産運用大手アルムンディのマクロエコノミスト、トリスタン・ペリエ氏は「財政規律が緩むと、欧州の至るところでポピュリスト(大衆迎合主義者)勢力が勢いづくだろう。イタリアを筆頭に、南欧の国々も背中を押される」と述べた。

フランスの債務の対GDP比率は100%弱と、過去最高に近い。

バークレイズによると、ユーロ圏の国債新規発行額は今年、ECBによる国債償還金の再投資分を勘案しなければ、2014年以来で最大となる見通しだ。

もっとも、長年にわたり財政緊縮を続けてきた欧州にとって、財政拡大は景気を支えるために必要だとの声も多い。

ゴールドマン・サックスの推計では、財政政策の転換により2019年のユーロ圏のGDPは0.4%ポイント押し上げられる見通しだ。

ただJPモルガン・アセット・マネジメントの首席市場ストラテジスト、カレン・ウォード氏は「長期的な解決策となる財政拡大であれば素晴らしい。問題は、そうならない傾向があることで、そのシナリオでは債務の増大を心配する必要がある」と語った。

(Abhinav Ramnarayan記者、Dhara Ranasinghe記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井住友FG、印イエス銀株の取得を完了 持分24.

ビジネス

ドイツ銀、2026年の金価格予想を4000ドルに引

ワールド

習国家主席のAPEC出席を協議へ、韓国外相が訪中

ワールド

世界貿易、AI導入で40%近く増加も 格差拡大のリ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中