最新記事

テロ

フィリピン、イスラム教徒の自治認める投票めぐり爆弾テロで21人死亡 報復テロも発生、泥沼化の恐れ

2019年1月30日(水)20時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

フィリピン南部ホロ島のカトリック教会で爆弾が爆発、市民や警備の兵士ら21人が死亡した。REUTERS

<フィリピン南部で長らく続いていたイスラム勢力との紛争に終止符を打つ自治権政府創設が、テロによってスタートから危機に瀕している>

フィリピン南部ミンダナオ島に近いスールー州ホロ島で1月27日、日曜日のミサが行われていたカトリック教会で爆弾が爆発、市民や警備の兵士ら21人が死亡し、111人以上が負傷した。事件後、中東のテロ組織「イスラム国(IS)」の分派を名乗る「IS東アジア州」がアマク通信を通じて犯行声明を出した。これに対し捜査当局は「IS東アジア州」という組織による犯行を確認しておらず、実際にはISと関連があるとされるフィリピンのイスラム教過激派組織「アブサヤフ」が事件に関与した疑いが濃厚とみて捜査を進めている。

テロ現場を28日に訪れたドゥテルテ大統領はテロを激しく非難するとともに「国家の敵を直ちに殲滅せよ。投降は受け入れない、殺害しろ」と犯行組織への敵意をむき出しにした。

一方、30日には南部ミンダナオ島のザンボアンガにあるイスラム教の寺院で手榴弾が爆発、聖職者2人が死亡、ほかに少なくとも4人が負傷した。現地メディアによると、現場には手榴弾の安全ピンが発見されたほか、監視カメラには午前0時過ぎに近くの街灯を消し手榴弾をモスクに投げる容疑者の姿が映っていたという。今回のモスク襲撃については、27日に発生したキリスト教会でのテロへの報復攻撃だという見方が有力だ。

21人が死亡、重体5人を含む111人以上が負傷

ホロ島のホロ市にあるカトリック教会「アワーレディ・オブ・マウント・カルメル教会」で27日、日曜日朝のミサが始まった直後に聖堂内で爆弾が爆発した。その約1分半後には教会の正面入り口付近で2度目の爆発があり、ミサに参列中の信者と警備に当たっていた国軍兵士ら21人が死亡、重体5人を含む111人以上が負傷した。

初動捜査では2か所に仕掛けられた爆弾が遠隔操作で爆破されたものとみられ、監視カメラには聖堂内で爆弾らしきものを置く女性が映し出されていた。

しかし、28日に現場を視察したドゥテルテ大統領は軍からの情報だとして「自爆テロ犯による犯行の可能性がある。聖堂内で自爆したのは女性で、入り口付近の犯人は男性というカップルによる犯行だ」との見方を示した。

もし自爆テロ犯による犯行とすれば「フィリピンでは初の自爆テロ事件となる」と地元紙「フィリピンスター」などは伝えている。

デルフィン・ロレンザーナ国防相は地元紙に対して「少なくとも2度目の爆発は自爆テロの可能性がある」と話している。

捜査当局は自爆による犯行とはまだ完全に断定していないが、「教会内に身体検査を免れて入れるのは女性であるため、女性が建物内で、男性が外部の入り口付近で自爆したのかもしれないが、遺体は爆破でバラバラの状態であり、入り口で警戒していた兵士も死亡しており、現段階での断定は難しい」としている。

自爆テロだとするとISの犯行声明と一致する部分があるというが、警察などではスールー州を主要な活動拠点とする「アブサヤフ」の犯行とみて、教会周辺の監視カメラに記録された「アブサヤフ」のメンバーとみられる6人の行方を追っているという。

ドゥテルテ大統領はまた「自爆実行犯は外国人である可能性もある」としてインドネシア人犯行説を挙げているが「自爆で遺体がバラバラで残っていない」とも述べており、根拠は現段階では明確ではない。


27日のキリスト教会での爆弾テロ事件について伝える現地メディア ABS-CBN News / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネスレ、1万6000人削減へ 第3四半期は予想上回

ビジネス

トヨタと豊田織に適切な情報開示要請、少数株主保護も

ワールド

消費税・献金廃止など12項目を自民に提示、あす再協

ビジネス

TSMC、第3四半期39%増益で過去最高 AI需要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中