最新記事

北朝鮮

北朝鮮で軍兵士による襲撃事件が多発......地域住民ら警戒

2018年12月26日(水)11時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

軍事訓練に参加する北朝鮮軍兵士(2013年3月提供) KCNA/REUTERS

<冬を迎えてろくな食糧や装備がない北朝鮮軍の兵士の一部は、集団で強盗や詐欺を働き住民から略奪している>

国際社会による制裁、度重なる自然災害による凶作で、北朝鮮の食糧事情は予断を許さない状況が続いている。1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のころに比べればマシなようだが、食糧を協同農場からの配給に頼っている朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士たちの状況はひどい有様だ。それでなくとも軍紀は地に落ちていたが、ここへ来て農民を襲撃する事件が続発している。

参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、現地に駐屯する朝鮮人民軍の12軍団は、国からの配給が滞っているため、食糧事情が極めて劣悪な状態となっている。

飢えた兵士たちは集団で強盗や詐欺を働いている。抗議すれば暴力を振るわれることすらあるため、兵士を見かけたら避けるほどだという。住民からは「乞食軍隊」、「マフノ部隊」と呼ばれ、馬鹿にされつつ恐れられている。ている。マフノとは、ロシア革命時の黒軍の将、ネストル・マフノのことで、略奪の象徴だ。

参考記事:【スクープ撮】人質を盾に抵抗する脱北兵士、逮捕の瞬間!

食糧同様に、衣類の配給も滞っている。

冬には氷点下20度以下まで下がるこの地域の部隊に所属する兵士には、冬服や防寒靴、防寒足袋などが支給されることになっているが、12軍団の兵士には配給されず、昨冬に着ていたボロボロの冬服を直して着ている有様だという。そんな中、一部兵士が民家から中国製の靴を盗む事件が発生した。さらには住民に性的暴力を振るう場合もある。

彼らの栄養状態が非常に悪く、結核にかかる兵士も続出している。道内の三水(サムス)郡の鹿農場には臨時結核療養所が設置されているが、収容される人の35%が軍官(将校)だという。軍官でのこの状況なら、末端の兵士の状況はより深刻であることは想像に難くない。療養所に行ったところで、治療に必要な抗生物質を得るのは難しいだろう。

あまりの状況に脱走する兵士も多い。半年ほど復帰しなければ生活除隊(不名誉除隊)となり、今後の社会生活に様々な制限が加えられるが、それでも「死ぬよりはマシ」だと逃げる人が多いというのだ。

ただし、同じ地域にある軍隊でも、部隊によって置かれた状況は全く異なる。国境警備隊の場合は、密輸で儲けた資金を蓄えているため、食糧、衣類ともに充分に配給を受けている上に、自主的に耕した畑から取れる作物もあるため、兵士たちの栄養状態は良好だ。

そんな状況を知っている親たちは、息子を一般の部隊ではなく国境警備隊、海岸警備隊、海軍などに送り込むためにかなりの額のワイロを支払う。これはもはや一般的な現象だ。

情報筋も近隣住民も12軍団の兵士たちを恐れつつも、その惨状に心を痛めている。

「近隣住民の12軍団の兵士への視線は厳しいが、兵役に行った息子を持つ親たちは、心配している」(情報筋)

当局は今年夏から秋にかけて、中国から大量の穀物を取り寄せて軍隊に配給し、食糧事情がかなり好転したと伝えられてきたが、それも一時的なものだったようだ。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中韓外相が北京で会談、王毅氏「共同で保護主義に反対

ビジネス

カナダ中銀、利下げ再開 リスク増大なら追加緩和の用

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48

ワールド

デンマーク、グリーンランド軍事演習に米軍招待せず=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中