最新記事

AI医療

自殺者を追い詰める「心の因子」を、AIアルゴリズムが洗い出す

Preventing Suicide

2018年11月29日(木)17時00分
マシュー・ハットソン、佐伯直美(本誌記者)

自殺の要因を特定するのは難しい Spukkato/iStock.

<予測困難で増加に歯止めがかからない自殺――AIのアルゴリズムとSNSの活用でその要因が飛躍的に解明できる?>

今や自殺は、世代や地域を問わず深刻化する難題の一つ。WHO(世界保健機関)によれば、世界の自殺件数は年間80万件を超え、15~29歳の年齢層では2番目に多い死因となっている。アメリカで16年に自殺で亡くなった人は約4万5000人。99年から30%近く増加した。

自殺を事前に察知する術を見いだそうと、長年さまざまな研究が行われてきたが、いまだ突破口となりそうな成果はなきに等しい。しかしここにきて、意外な分野から「救世主」が現れるかもしれないとの期待が高まっている。AI(人工知能)が大きな飛躍をもたらす可能性があるというのだ。

そもそも自殺予測の大きな「壁」の一つは、要因を特定するのが難しいこと。鬱状態の人が自ら命を絶つ可能性が高いことを考えれば意外かもしれないが、自殺は多くの変数が絡み合った複雑なものだからだ。

17年にアメリカ心理学会の「心理学紀要」に発表された研究では、遺伝子や精神疾患、虐待など3428の危険因子を扱った過去50年の論文365本をメタ分析(複数の研究の分析結果の分析)。その結果、自殺を予測する上で1つの危険因子が臨床的に有意であることはない、との結論が出た。

そこで研究者らが提案するのが、数々の危険因子から有用なパターンを見つけるAIのアルゴリズムの開発だ。バンダービルト大学医療センターのコリン・ウォルシュ助教らが、17年にクリニカル・サイコロジカル・サイエンス誌で発表した研究は、その将来性を示している。

同研究では、自殺未遂や自傷行為で入院した患者3250人と、自殺未遂の経験がない患者1万2695人のカルテを比較。人種や年齢、薬の服用、既往症など診察で得られるデータに限定してコンピューターに機械学習させ、1週~2年間の期間で自殺を予測できそうなパターンを見つけ出させた。

するとAIアルゴリズムの予測精度は「2年以内に自殺を試みる可能性」で86%、「1週間以内」では92%に達した。ちなみに前述のメタ分析では、各種要因の精度は約58%だった。

ただし、実際にこうしたアルゴリズムを活用する上では、データの共有法やプライバシーの問題など、課題は数多い。さらに、詳しい情報のない不特定多数の人を対象にすることができないという問題もある。

その点でまったく違うアプローチが、昨年11月からフェイスブックが世界各地(EUを除く)で始めた自殺予防の取り組みだ。AIを活用して利用者の投稿や動画をスキャンし、自殺の可能性を示唆するものを抽出。危険性が高いと判断された場合は同社の専門対策チームに通知され、利用者本人やその友人に電話相談の利用を提案したり、必要に応じて各地域の自殺防止対策組織に連絡するというものだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国防次官と韓国国防相が会談、原子力潜水艦巡る協力

ワールド

衆院選、与党で過半数取れなければ「即刻退陣する」=

ワールド

台湾、中国軍指導部の「異常な」変化を注視

ビジネス

日経平均は反落、急速な円高進行を嫌気
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 7
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 8
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 9
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 10
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中