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ユーロ圏を脅かすイタリアの暴走

An Existential Test

2018年11月2日(金)15時40分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌記者)

欧州委員会の決定に対して「今更見直せない」と言ったジュゼッペ・コンテ首相はどんな策を講じるのか Alessandro Bianchi-REUTERS

<欧州委員会による予算案差し戻しで強気のコンテ政権も軟化するのか、それとも欧州全体をパニックに陥れるのか>

EUの執行機関である欧州委員会は10月23日、イタリア政府が提出した19年予算案を、欧州経済を不安定化させる恐れがあるとして差し戻した。イタリアの左派「五つ星運動」と極右「同盟」(元「北部同盟」)の奇妙なポピュリスト連立政権は、これまでもEUを批判してきたが、予算案差し戻しという前代未聞の措置に、両者の対立は一気に悪化したようにみえる。

果たしてこれは、新たな世界経済危機につながるのか。フォーリン・ポリシー誌のマイケル・ハーシュ記者が、米コロンビア大学のアダム・トゥーズ教授(経済史)に話を聞いた。

***


――欧州委員会によるイタリアの予算案差し戻しに驚いたか。

いいや。今年イタリアに新政権が成立して以来、欧州委員会とイタリア政府の間では非常に不快で激しい駆け引きがあった。第2与党・同盟を率いるマッテオ・サルビニ副首相は、EUの価値観全般に対する明白かつ現実的な脅威と考えられている。

欧州委員会は、イタリア政府の言動に我慢ならないと感じていたのだと思う。そしてEUにとって明らかな危険を取り除くためには、最初から厳しい態度で臨む必要があると考えたのだろう。だから(予算案差し戻しという)前代未聞の措置に出たのだと思う。

――今後、短期的には何が起きるのか。3週間以内に見直し案の提出が求められているが。

イタリア政治のメカニズムは非常に複雑で、外野から予想するのは非常に難しい。ただ、真のリスクは、政治的決定を下す人々が、金融市場のダイナミクスを過小評価していることだ。かつ市場はさほど万能ではない。とりわけECB(欧州中央銀行)は、今もイタリア国債を大量に買っている。その関係をめちゃくちゃにするほど対立が悪化すれば、混乱に歯止めがかからなくなるかもしれない。

既に10月19日、格付会社のムーディーズは、イタリア国債の格付けを投資適格で最低水準に引き下げた。格付けが投資適格水準も割り込むようなことになれば、自動的に売り注文が殺到するだろう。

怪しいハゲタカファンドの話ではない。機関投資家は、一定の格付け以上の資産を保有することを義務付けられている。イタリア国債が投資不適格と判断されれば、自動的に処分しなければならない。

これは極めて危険な状況をもたらす恐れがある。イタリアの金融部門は約4000億ユーロ相当の国債を保有しているから、悪夢のシナリオと言っていい。

――イタリア発のユーロ危機が世界的な金融危機をもたらす可能性はあるのか。金利が極めて低い水準にあるなか、世界の中央銀行が取れる手段は限られているようにみえる。

もしヨーロッパが世界的な金融危機の引き金を引くとすれば、イタリアが震源地になるだろう。イタリアは世界第4位の国債発行国だ。現在、金融市場は全体としてデリケートな状況にある。

とりわけアメリカの株式市場は過熱気味で、金融引き締めとのバランスは心もとない。パニックに陥った投資家がイタリア国債を売り払い、より安全な資産であるドイツ国債や米国債に資金を逃避させやすい状況にある。それはユーロ圏にモラル上のリスクを引き起こす。

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