最新記事

事故

離陸前のインドネシア機から乗客脱出 荷物室にあったのはドリアン2トン

2018年11月8日(木)14時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

newsweek_20181108_143112.JPG

身も心もとろけそうな味わいと臭さ (撮影筆者)

悪臭だが「果物の王様」ドリアン

ドリアンは東南アジア全域にある果物で、トゲ状の外観からは想像もできないほど果実は甘くとろける様な触感で「果物の王様」と称されている。ただその臭いは強烈で「生ごみの臭い」「食べ物が腐敗した臭い」など酷評を得ており、ドリアン好きには応えられない臭いもドリアン嫌いには耐えがたい悪臭でしかない。

その強烈な臭いゆえに、インドネシア、シンガポールなどでは航空機は当然のことながら列車や地下鉄、バスやタクシー、ホテルへの持ち込みが厳しく制限されている。

ドリアン好きに言わせると「最初に口にしたドリアンで好き嫌いが完全に分かれる」ということで、ドリアンの「ファーストコンタクト」ならぬ「最初のひと口」が、その後の人生でのドリアンとの関係を決定づけることが多いという。

つまりドリアンでも味に幅があるということでマレーシアに多い品種「モントン」がドリアン好きの間では最高とされている。

インドネシアでは「メダン」「ぺトラック」などの品種があり、5〜10月の最盛期には各地にドリアン専門の夜市がたつほか、道端にドリアンを満載したトラックが停まり即席販売で売られている。臭いが強いため自家用車で来て購入するか、販売しているその場で食べるのが通常だ。

安いもので1個が10万ルピア(約800円)、大きく甘い品種などになると20〜40万ルピア(約1,600〜3,200円)になる。

ビールなどのアルコール類やコーヒーなどとの「食べ合わせ」がよくないと言われているが科学的に証明された訳ではないという。

ドリアン味のキャンディー、ドリアンアイスクリーム、ドリアン羊羹(ようかん)、ドリアンのドライフルーツ、ドリアンジュースなど臭いをやわらげた加工商品も数多く製品化されている。

newsweek_20181108_143109.JPG

インドネシアではよく見かけるドリアンの移動即売(撮影筆者)

今後は別の方法検討、と航空会社

今回の「事故」についてスリウィジャヤ航空は「ドリアンは航空機の運航に支障をきたす物でもないし、積載禁止の危険物にも指定されていないので積み込んだだけである」としながらも「ドリアンの積載に関しては今後、乗客への迷惑、という観点からどういう方法があるのか検討することとした」として今後、同様の事案の発生を防止するとともに、ドリアン輸送に関する新たな方法を模索するとしている。

ドリアンのシーズンは間もなく終わろうとしているが、冷凍などで保存されたドリアンは一年中出回っており、今後もドリアン好きとドリアン嫌いの人による「臭い」を巡る攻防は続きそうだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中