最新記事

中東

サウジvsトルコ、その対立の根源

A Historic Islamic Rift

2018年10月27日(土)16時00分
ムスタファ・アクヨル(米ケイトー研究所上級研究員)

トルコを訪問したサウジアラビアのサルマン国王とエルドアン大統領(アンカラ、16年4月) Umit Bektas-REUTERS

<著名ジャーナリスト殺害事件の裏には2つのスンニ派国家の300年来の確執がある>

サウジアラビアの著名ジャーナリスト、ジャマル・カショギがトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で惨殺されたのは、どうやら間違いなさそうだ。

凶行の背後に「改革派」で鳴らすサウジ皇太子ムハンマド・ビン・サルマンの影がちらついている。しかし問題の根はもっと深い。実を言えば、トルコ・サウジ間には信仰と地域の覇権をめぐる歴史的な確執がある。

そもそも両国は同じイスラム教スンニ派に属しているが、その信仰の「バージョン」が異なる。そのため互いに異なる道を歩んできて、今も異なる世界観を抱いている。

始まりは18世紀だ。いま「中東」と呼ばれている地域の大部分は、オスマン帝国領だった。都はコンスタンティノープル(現イスタンブール)、権力を握っていたのはトルコ人と、バルカン半島のイスラム教徒だ。一方、イスラムの聖地メッカとメディナがあるヒジャーズ(アラビア半島の西部)は文化的にも政治的にも後進地域だった。

そんなアラビア半島の過疎地で、1740年代に頭角を現したのが法学者のムハンマド・イブン・アブドゥル・ワッハーブだ。「真のイスラム」の復活を目指すワッハーブは、シーア派のみならずオスマン帝国バージョンのスンニ派をも「背教者」と決め付けた。彼にとって、聖廟崇拝などの要素を持ち込んだトルコ人の信仰は、イスラム法を勝手に「改変」する許し難い異端にほかならなかった。

このワッハーブに共鳴したのが、今のサウド王朝の始祖とされるムハンマド・イブン・サウドだ。2人はオスマン帝国から独立して第1次サウド王国を築き、その領土も野望も膨らませていった。1801年にはイラク中部のシーア派の聖地カルバラでシーア派住民を虐殺し、その2年後にはメッカを占領した。しかし1812年にはオスマン帝国が配下のエジプトを動かして鎮圧に乗り出し、追われたワッハーブ派は砂漠に逃れるしかなかった。

「エルドアン教」の台頭

1856年、同盟国イギリスの影響もあって、オスマン帝国は大胆な改革を断行。アラビア半島(メッカを含む)で横行していた奴隷貿易を禁じたのだ。

これに怒った奴隷商人に押されて、メッカの指導者アブドゥル・ムッタリブはオスマン帝国の信仰に「異端」を宣告。当時のオスマン帝国の政治家アフメド・ジャブデト・パシャの記録によれば、異端とされたことには「女性が肌を露出することや父または夫と離れて過ごすことを許し、女性に離婚の権利を与えたこと」も含まれていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中