最新記事

ヘルス

「スマホの電磁波で癌になる」は本当か

DO CELL PHONESCAUSE CANCER?

2018年10月30日(火)18時00分
ロニー・コーエン(ジャーナリスト)

ヘビーユーザーはリスクが高い

物理学や生物学の常識に従えば、携帯電話が癌を引き起こすことは考えにくい。携帯電話から放射される電磁波は「非電離」、つまり太陽光のX線や紫外線のようにDNAを損傷することはない。携帯電話の電磁波は電子レンジのものと同様だが、その強さは残りもののパスタを温めるのに必要なレベルより低い(研究初期の段階では、携帯電話の電磁波が体の組織を熱する可能性に焦点が当てられ、安全規制はこの懸念を念頭に導入された)。

癌を引き起こす携帯電話の電磁波と、脳または乳癌細胞との相互作用は不明なままだが、保健当局は懸念を抱いている。携帯電話の電磁波は、約35キロ先の基地局に届く強度が必要とされている。つまり、至近距離では信号の強度がかなり高くなるということだ。スマートフォンを耳に付けている場合、電磁波の強度は15センチ離れている場合の1万倍にもなる。

ほとんどのユーザーは携帯電話を耳に押し当てて、つまり脳組織に近い場所で使う。生殖器や消化器に近いウエストポーチやポケットに毎日何時間も入れている。

癌と携帯電話の関係をめぐる研究が決定的な答えを出せない理由の1つは、調査の困難さだ。一般に癌はゆっくりと進行するが、携帯電話は普及してから30年程度。実際にはまだ影響が出ていないのかもしれない。さらに明確な結論を出すには、調査対象を広げ、癌の原因として携帯電話を他の原因と切り分ける必要があるが、この作業は極めて困難だ。

無線通信事業者の業界団体CTIAの広報担当者は、具体的な質問には答えなかったが、一般論としてこんな声明を発表した。「科学的証拠によれば、携帯電話が放出する(電磁波の)エネルギーによる人体への健康リスクは知られていない」。さらに脳腫瘍に関する統計を引用して、「80年代半ばの携帯電話の登場以来、アメリカでは脳腫瘍の割合は減少している」と主張した。

この引用自体は正しい。ただし、通話時の携帯電話に近い部位、つまり前頭葉、側頭葉と小脳の腫瘍発生率は増加している。学術誌ワールド・ニューロサージェリーに掲載された12年の研究によれば、カリフォルニア州では92~06年の間に、これらの領域で特に致死性の高い癌が増加した(脳の他の領域では減少していた)。

学術誌「労働・環境医学」に発表された14年のフランスの研究では、良性・悪性の脳腫瘍を発症した447人と対照群の被験者グループを比較した。その結果、全体的には脳腫瘍と携帯電話との間に関連は認められなかったが、一生のうちに携帯電話を896時間以上使用するヘビーユーザーは腫瘍発症率が高かった。

ただし、このカテゴリーに当てはまったのは37人だけで、関連があると結論付けるにはサンプル数が少な過ぎる。それに病気と行動の関係についての多くの研究と同様、この調査も携帯電話の使用時間を被験者の自己申告に頼っているため、信頼性に問題がある。

mobilechart02.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米株高を好感 東京エレク

ワールド

麻生自民副総裁、トランプ氏とNYで会談 米大統領選

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ビジネス

中国当局、地方政府オフショア債への投資を調査=関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中