最新記事

北朝鮮

金正恩の美女エリート外交官にささやかれる出生の秘密

2018年10月11日(木)12時05分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮の「名門」出身の噂もささやかれるチェ・ソニ外務次官 Edgar Su-REUTERS

<重要な外交交渉を仕切るチェ・ソニ外務次官には、金日成の抗日パルチザン時代からの戦友の娘という「名門」出身の噂が>

北朝鮮で、女性エリートの活躍が際立っている。筆頭は金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長だが、金正恩党委員長の妹であり、彼女の活躍自体は意外なものではない。

しかし、北朝鮮の対日・対米外交で女性が前面に立つのは、いままで見られなかった現象だ。7日にポンペオ米国務長官が訪朝した際には、金正恩氏との昼食会に、対米外交の担当者である金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長(統一戦線部長)に加え、金聖恵(キム・ソンヘ)統一戦線部策略室長も同席したとみられる。金聖恵氏は7月、ベトナムで日本の北村滋内閣情報官と極秘接触したとされる人物だ。

彼女にも増して目立っているのが、崔善姫(チェ・ソニ)外務次官だ。今月に入り、中国とロシアを訪問。中国の孔鉉佑外務次官、ロシアのイーゴリ・モルグロフ外務次官と相次いで会談し、9日にはモスクワで3者会談を行った。米国との非核化交渉で両国の支援を取り付けるのが目的と見られ、まさに国運を背負った重要任務と言える。

北朝鮮で政治的に重要なポジションに立った女性としては、金日成主席の後妻である金聖愛(キム・ソンエ)氏や、彼の長女で金正日総書記の実妹である金慶喜(キム・ギョンヒ)氏が知られる。また一般的には知られていないが、金正恩氏の異母姉である金雪松(キム・ソルソン)氏が一時、北朝鮮の人事と政務を一手に掌握する党組織指導部長の要職にあったとも言われる。

参考記事:金正恩氏の「美貌の姉」の素顔...画像を世界初公開

しかしこの3人は、いずれも金王朝のメンバーだ。それ以外で出世した女性としては、崔善姫氏が最高なのではないだろうか。

世界の注目が集まる人物だけに、彼女にも色々な噂がある。たとえばある情報通の脱北者は、次のように語っている。

「チェ氏は、崔永林(チェ・ヨンリム)元総理の養女で、朝鮮労働党に入党した際には、金正日総書記が保証人となったほどのエリートです。北京とマルタに留学経験があり、英語も堪能。もの静かなインテリですが一時期、平壌の上流階級で噂の的になりました。既婚の身でありながら、現外相の李容浩(リ・ヨンホ)氏と男女関係にあったようなのです」

また、別の脱北者は、「崔善姫氏の本当の父親は崔賢(チェ・ヒョン)元人民武力部長だ」と語る。崔賢氏は金日成氏の抗日パルチザン時代からの戦友だ。その一族は北朝鮮において、金王朝に次ぐ「名門」とも言える。崔善姫氏が本当に崔賢氏の娘であるなら、彼女の出世ぶりも「なるほど」と思えるものだ。

ちなみに、党副委員長の崔龍海(チェ・リョンヘ)氏は崔賢氏の息子だ。「変態性スキャンダル」などのために失脚させられながら復活できたのも、父親の威光のおかげと言われる。

いずれにしても、崔善姫氏をはじめとする女性陣の活躍は、かつての北朝鮮では見られなかったものだ。男尊女卑の悪習が色濃く残る北朝鮮において、この部分に関しては、金正恩政権下での「前進」を評価することができる。

参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾン、3年ぶり米ドル建て社債発行 150億ドル

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中