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戦力分析

台湾は人民解放軍の上陸作戦に勝てる

Taiwan Can Win a War With China

2018年10月4日(木)17時10分
タナー・グリーア(フォーリン・ポリシー誌記者)

彼にとっては分が悪い戦いだ。たとえば90~91年の湾岸戦争で、アメリカ主導の多国籍軍は8万8500トンの銃弾を使ったが、イラクの移動式ミサイル発射車両を1台も破壊できなかった。その後のコソボ紛争でも、NATO軍の78日間にわたる空爆は、セルビア側の移動式ミサイル発射装置22台のうち、3台を破壊したにすぎない。中国空軍の攻撃の成功率が、これ以上に高いと考える理由はない。

哀れな歩兵が上陸時の集中攻撃を生き延びたとしても、その先の進軍は苦難の連続だ。まず台湾軍の主力部隊、そして各地の都市やジャングルに散らばる165万人の予備役、地雷原やブービートラップ、瓦礫の山などが待ち受けている。

実戦の経験がなく、しかも無敵の中国軍という宣伝を信じ込んでいた歩兵にとっては手に余る想定外の事態だ。

こうしたシナリオに現実性があるからこそ、中国軍の将校用マニュアルには彼らの不安が色濃く反映されている。戦争が大きな賭けになることを、彼らは知っている。だからこそ中国政府は、少しでも台湾に武器が供与されることに猛反発する。中国軍が無敵でないことは、彼ら自身がよく理解している。

アメリカのアナリストによれば、敵国の沿岸部で攻撃側が空・海軍力の優位を維持することは技術的に非常に難しい。コスト面でも、防衛側のほうが攻撃側より有利だ。軍艦を建造するより、それを破壊するミサイルを買うほうが安上がりだ。

敗北主義こそが真の脅威

つまり、今は守る側が有利な時代。だから台湾は、中国ほどの軍事予算を計上しなくても中国軍の侵攻を食い止められる。

台湾の人たちは、この事実に気付くべきだ。筆者は台湾で徴兵された兵士や職業軍人に直接取材したが、彼らは一様に悲観的だった。兵士の士気の低下は、徴兵制度の深刻な運営上の問題を反映している。熱心な愛国者さえも、徴兵期間の経験で軍隊に幻滅してしまう。

同様に問題なのは、自国の防衛力に対する台湾人の知識の欠如だ。最近の世論調査によると、台湾人の65%が中国軍の攻撃を阻止する台湾軍の能力に「自信がない」ことが分かった。

台湾には中国の侵攻を阻止する軍事力があることを島民にアピールする取り組みがなされない。一方、台湾と正式な国交を維持する国がどんどん減っているといった無意味な指標で住民は悲壮感を募らせている。

中国軍の作戦は、士気を失った台湾軍を圧倒し、服従させるように計画されている。最も重要な戦場は、台湾人の心の中なのかもしれない。台湾の民主主義にとって、敗北主義は中国の兵器よりも危険なものだ。

アメリカや日本も、台湾の防衛についてはもっと楽観的かつ強気になるべきだ。確かに台湾軍は、上陸した中国軍を抑えられるのは2週間と予測している。だが中国軍も、2週間以内に台湾を制圧できなければ戦争に負けると考えている。

中国と台湾の軍事予算の差は大きく、差は広がる一方だが、台湾は中国の侵略を抑止するために中国と同等な軍事費など必要としない。必要なのは侵攻を思いとどまらせるに足る武器を購入する自由だ。そのためにはアメリカ議会を説得する必要があるが、その政治的バトルに台湾が勝利すれば、中国も台湾侵攻を諦めるはずだ。

本誌2018年10月09日号[最新号]掲載

[2018年10月 9日号掲載]

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