最新記事

貿易戦争

日米合意の新たな通商協議は一時しのぎ? 貿易不均衡に万能薬なし

2018年9月30日(日)20時02分

9月27日、日米両国が新たな通商協議の開始で合意したことで、貿易不均衡を巡る同盟国間の全面対決は差し当たり回避された。だが、どのようなディールに至ったとしても、トランプ大統領を激怒させている米国貿易赤字の削減には、ほとんど役に立たないだろう。写真は握手する安倍首相とトランプ米大統領。NYで26日撮影(2018年 ロイター/Carlos Barria)

日米両国が新たな通商協議の開始で合意したことで、貿易不均衡を巡る同盟国間の全面対決は差し当たり回避された。だが、どのようなディールに至ったとしても、トランプ大統領を激怒させている米国貿易赤字の削減には、ほとんど役に立たないだろう。

今回、締結に向けて協議が行われることとなった新たな日米物品貿易協定(TAG)以前にも、日本の市場開放を狙った2国間交渉はこれまでも行われてきた。1981─1994年の輸出自主規制など、日本の対米輸出を抑制する目的で実施されたこともある。

これまでの交渉の結果、日本はすでに外国製品に対する多くの正式な障壁を取り除いており、大きな影響をもたらすような措置を講じる余地はほとんど残されていない。

新協定名の意味

安倍晋三首相は、この新たな通商枠組みとなるTAGについて、投資・サービス分野を含む広範囲な自由貿易協定(FTA)とは「まったく異なる」と述べた。ただし共同声明は、対象分野の1つとしてサービスを挙げている。

安倍首相のスタンスは主に国内消費に向けられており、これまでもFTA交渉は行わないと明言している。

また、今回の合意では、農産物の輸入関税引き下げについては、環太平洋連携協定(TPP)など日本が参加する他の合意で決められた範囲内としている。トランプ大統領は昨年、TPP離脱を表明している。

ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、日本に対し完全なFTA締結を目指す考えを表明している。同協定には米議会の承認が必要となる。FTA締結となれば、トランプ大統領は日本を屈服させたと主張するかもしれない。

より大規模な米中不均衡

世界的な経済要因を考えると、そもそも2国間の貿易不均衡を重視することにほとんど意味がないと、多くのエコノミストは指摘する。

1980年代の市場志向型分野別(MOSS)協議や1990年代の日米構造協議(SII)など、日本と米国の間で行われてきた日本市場を開放させるための一連の交渉により、一部農産物に対して高関税をかけて保護していることを除けば、日本の市場障壁は比較的少なくなっている。

「米国企業が日本で抱える市場アクセス問題は、極めて小さい」と、資産運用会社ウィズダムツリー・ジャパンのイェスパー・コール最高経営責任者(CEO)は指摘。「大きな参入障壁はクリントン政権によって取り除かれた」

日本の対米黒字は昨年690億ドル(約7.8兆円)で、米国が抱える貿易赤字全体の1割にも満たない。1990年代初めのピーク時には6割近くを占めていた。現在は、中国が米貿易赤字の約46%を占めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

週末以降も政府閉鎖続けば大統領は措置講じる可能性=

ワールド

ロシアとハンガリー、米ロ首脳会談で協議 プーチン氏

ビジネス

HSBC、金価格予想を上方修正 26年に5000ド

ビジネス

英中銀ピル氏、利下げは緩やかなペースで 物価圧力を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中