最新記事

海洋生物

発見した研究者が我を忘れるほど美しい、新種の魚「アフロディテ」

Researchers Discover 'Beautiful' Mystery Deep Sea Fish

2018年9月26日(水)17時00分
キャサリン・ハイネット

「美の女神」と名付けられた魚の住みかは珊瑚礁 Luiz Rocha/2018 California Academy of Sciences

<ピンクと黄色の縞模様をまとう世にも美しい魚が見つかった。浅くもなく深すぎもしないその海「トワイライトゾーン」は、まだ人類にとって未知の海だ>

水深120メートルの海を泳ぐ新種の魚を発見したカリフォルニア科学アカデミーの科学者たちは、その美しさに心を奪われた。珊瑚礁で見つけた色鮮やかなその魚に気をとられるあまり、すぐ上をめったに見られない巨大なカグラザメが通り過ぎていったのにも気づかなかったほどだ。

ブラジル沿岸から970キロ沖の列島海域で潜水していた研究チームは、珊瑚礁に潜む未知の極彩色の魚を発見した。ギリシャ神話の愛と美の女神にちなみ、トサノイデス・アフロディテ(Tosanoides aphrodite)と名づけられたその新種は、研究チームにより学術誌「ズーキーズ(ZooKeys)」で報告された。

「新種を発見するといつでも興奮するが、今回はあまりに壮観で予想外だったので、潜水の間中ずっと夢見心地だった」と、カリフォルニア科学アカデミーの魚類担当キュレーターを務めるルイス・ロチャは本誌に語った。

アフロディテにちなんで名づけられたものの、強烈なピンクと黄の縞模様をまとったこの新種のオスは、パンクバンドかブラックライト・パーティーを連想させる。メスはもう少し控えめで、赤みがかったオレンジ色だ。


Luiz Rocha/2018 California Academy of Sciences

「これまでに目にした魚のなかでも、屈指の美しさだ」とロチャは声明で述べている。「あまりにも魅力的だったので、まわりのものが何も目に入らなくなった」

こんなに鮮やかな理由はまだ不明

謎めいたこのアフロディテは、海のトワイライトゾーン(薄光層)に生息している。太陽の光がわずかしか届かない海だ。「トワイライトゾーンの魚は、ピンクや赤っぽい色を持つ傾向がある」と、アカデミーの研究者ハドソン・ピニェイロは述べる。「赤い光はこの深さまで届かないため、ライトで照らさない限り、見えにくい」

これほど鮮やかな色になった正確な理由はわかっていないが、仮説はある。「有力なのは、この深さでは見えなくなる赤を保護色として使っているということ。だがそれだと、メスが保護色になっていない説明がつかない」と、ロチャは言う。「謎を解明するため、今、視覚遺伝子の配列を解析しているところだ」

研究チームは、この魚を顕微鏡で観察し、DNAを分析した。その結果、これまで大西洋では確認されていなかった種類であることが明らかになった。

トワイライトゾーンに広がる珊瑚礁は、従来の潜水艇が探査する深さよりは浅いが、娯楽目的のダイバーが潜るには深すぎるため、調査が進んでいない。まだまだ秘密がたくさん隠されている可能性がある。

「珊瑚礁が地球規模の危機にさらされている現在、まだ調査されていない珊瑚礁の生息環境や、そこに住む色鮮やかな生物たちについて理解を深めることは、それらを保護するための方法を知るうえできわめて重要だ」と、ロチャは言う。

(翻訳:ガリレオ)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

ウクライナ提案のクリスマス停戦、和平合意成立次第=

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡

ビジネス

EU、自動車業界の圧力でエンジン車禁止を緩和へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中