なぜグリーンランドの巨大氷河は崩壊するのか? 温暖化の謎を追う
南極圏はグリーランドよりはるかに多くの氷を抱え、最終的に海面上昇においてもずっと大きな役割を果たす可能性があるからだ。そして、グリーンランドの氷のほとんどは海面よりも高い陸地にあるが、南極圏西部の氷床の大部分は海面以下であり、海水温上昇の影響を受けやすい。
NASAによれば、グリーンランドの氷の融解は現在、世界全体の海面を年間0.8ミリのペースで上昇させており、世界のどの地域よりも上昇値が高い。五輪競技用の水泳プールなら1億1500万面を満たすに足る水量である。
IPCCの研究に携わる科学者は、海面上昇の評価については現時点で最も権威があるとされるが、暫定的な調査結果についてコメントすることは控えた。
IPCC報告書のまとめ役であるハンスオットー・ポッター氏は新たな報告書について、「検証とさらなる改訂を経て」2019年9月に公表する予定だと述べている。
だが、草案作成に関与している科学者の1人が匿名を条件に語ったところによれば、海面上昇に関する予測の範囲は、検証・改訂を経てもより厳密になる可能性はないという。
「海面上昇の予測幅は拡大している」とこの科学者は言う。
データ不足
予測が改善されれば、世界各国の政府にとっては朗報だろう。
たとえば英環境庁は、2100年の時点で海面が90センチ上昇する事態に備え、ロンドンを守るためにテムズ川の防潮堤を更新することを想定しているが、2.7メートルという破滅的な上昇を考慮して計画を修正する可能性がある。
米地球物理学連合(AGU)の刊行物に昨年発表された研究では、2100年までに50センチの海面上昇があれば、中国、ベトナム、バングラデシュを中心として、現在約9000万人が暮らす地域が海面下になると試算している。同研究では、海面上昇が1.5メートルになれば全世界で1億5000万人超の暮らす地域が海中に沈む計算だ。
米国科学アカデミーの刊行物に2016年に発表された研究では、2100年までに1メートルの海面上昇があった場合、2012年にニューヨーク地域の広い範囲で洪水を引き起こしたハリケーン「サンディ」に匹敵する事象が発生する可能性が最大17倍に高まると予測している。
IPCCによれば、海面上昇によってすでに危険性の高い暴風雨の発生は増加しており、米国のメキシコ湾岸地域からモルディブ諸島、中国に至るまで、洪水や海岸侵食が深刻化しているという。フィジーやバヌアツといった標高の低い島しょ国では、海岸沿いの集落の一部を高地に移転させている。
IPCC報告書草案は、2100年時点での海面上昇の幅は、化石燃料による大気汚染の抑制に向けた各国政府の成果に大きく左右されると指摘。IPCCは、化石燃料による大気汚染が20世紀半ば以降の地球温暖化の主因であるとしている。
だが、ニューヨーク大学の海洋学者であり、12年にわたってグリーンランドの氷河を研究しているデービッド・ホランド氏によれば、氷床の動態に関する科学者の理解が不足していることも、氷河の融解が海面上昇に与える影響の予測を困難にしている一因だという。
「氷床の動態モデルは、まだ欠陥だらけだ」とホランド氏は言う。「より困難の多い予測と未知の物理学に踏み込もうとしている」