なぜグリーンランドの巨大氷河は崩壊するのか? 温暖化の謎を追う
水温の高い深海水
グリーンランドの氷河の一部は他よりも急速に消滅しつつあり、その理由を解明することがNASAのミッションの重要な目標となっている。
グリーンランド北西部のトレーシー氷河の氷が、なぜ近隣のヘイルプリン氷河に比べて4倍近いペースで消滅しつつあるのか、その解明に貢献したのは、海水の温度、深さ、塩分濃度に関するNASAの新たなデータだった。研究者は、より深い岩盤の上にある「トレーシー氷河」から流れ出す真水が、グリーンランド沖の温度が高く塩分を含む海水の層と混ざり合うことにより、融解プロセスが加速したという結論に至った。
同様のトラブルに陥っているグリーンランドの氷河は他にもたくさんある。
昨年、67カ所の氷河が、海面より少なくとも200メートル以上深い海水層と接していることを研究者は発見した。この数は、これまでに知られているより、少なくとも2倍は多かった。
6月、グリーンランドのヘルハイム氷河から幅6キロの氷山が崩落し、粉々に砕けた。海水温の上昇によって引き起こされた可能性のある「カービング(氷山分離)」と呼ばれるプロセスである。
科学者は、南極圏で破滅的な規模でのカルビングが発生するのではないかと懸念している。南極にはヘルハイム氷河よりもはるかに大規模なスウェイツ氷河があるが、これは南極西部の氷床を維持する要になっていると考えられている。
「もしスウェイツ氷河がヘルハイム氷河と同じように動くとすれば、(どの程度の速さで崩落していくか)予想できない」とマサチューセッツ大学アマースト校のロバート・デコント教授(地球科学)は語る。同教授は、来年発表される予定の海面上昇に関するIPCC報告書の作成チームに名を連ねる。
IPCC報告書草案では、南極圏だけでも今世紀中に海面を最大50センチ上昇させる可能性があると示唆しており、このプロセスが不可逆的なものになりかねない証拠が増大しているという。