最新記事

米安全保障

トランプを止められる唯一人の男、マティス国防長官が危ない?

The Incredible Shrinking Defense Secretary

2018年8月31日(金)20時10分
ララ・セリグマン

トランプは最初、国家安全保障問題を理解できずマティスに頼りきっていた。だがそのマティスも、すべての戦いに勝てたわけではない。トランプは地球温暖化防止のための「パリ協定」から脱退し、イスラエル建国70年に合わせて米大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。マティスはどちらにも反対だったが、トランプに押し切られた。それでも、トランプがマティスに一目置いていたのは明らかだった。

「マティスは就任1年目、議論の余地なく最も影響力のある閣僚だった。自他ともに、それは分かっていたはずだ」と、アメリカン・エンタープライズ研究所のマッケンジー・イーグデン常任研究員は言う。

マティスはアメリカの同盟国、とりわけ中東アラブ諸国のアメリカへの信頼をつなぎとめるため、元米中央軍司令官としての影響力を利用した。バーバラ・リーフ元駐UAEアメリカ大使(今年3月に退任)によれば、昨年6月にサウジアラビアなど湾岸・アラブ4カ国がカタールと断交した時も、マティスが事態を収拾した。「彼の言葉には重みがある」と、リーフは言う。

だがマティスは今年に入って、国際協調派だった2人の同志を失った。H・R・マクマスター前大統領補佐官(国家安全保障担当)と、レックス・ティラーソン前国務長官だ。この2人に代わって入閣したボルトンとマイク・ポンペオ国務長官は、トランプに大きな影響力を持つようになった。

「マティスとトランプの関係も以前とは変わり、その結果マティスの影響力は弱まったという印象だ」、とレオン・パネッタ元国防長官は言う。

トランプが決めたイラン核合意からの離脱は、2人の足並みが乱れた最悪のケースだが、他にもある。6月の米朝首脳会談後、トランプが米韓合同軍事演習の中止を決めたのも、国防総省にとって寝耳に水だったと言われている(ただしマティスはそれを事前に知らされていたと、国防総省のデーナ・ホワイト報道官は言う)。

さらにトランプ政権は、米軍をシリアから早期撤退させる意向を表明しており、8月17日にはシリアの安定化を目的とするプロジェクトへの資金拠出を取りやめると発表した。マティスはそれと対照的に、テロ組織ISIS(自称イスラム国)を掃討した後も、アメリカがシリアへの関与を継続することの重要性を強調してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科の社債権者、返済猶予延長承認し不履行回避 

ビジネス

ロシアの対中ガス輸出、今年は25%増 欧州市場の穴

ビジネス

ECB、必要なら再び行動の用意=スロバキア中銀総裁

ワールド

ロシア、ウクライナ全土掌握の野心否定 米情報機関の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 10
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中