最新記事

韓国経済

韓国のデトロイト、現代グループの城下町「蔚山」を襲う失業と自殺

2018年8月27日(月)16時30分

かつて豊かな企業城下町だった韓国南東部の港湾都市・蔚山(ウルサン)は、中国との競争、人件費の上昇、そして現代グループへの過度な依存によって大きく揺らいでいる。5月、蔚山で撮影(2018年 ロイター/Kim Hong-Ji)

現代重工業で働くため、リー・ドンヒーさんが韓国南東部の港湾都市・蔚山(ウルサン)に移り住んだ5年前には、現代グループの企業城下町として栄えていた同地の造船所は昼夜を問わず稼働していた。

従業員も韓国平均給与の3倍を稼いでいたという。

だが、現在52歳のリーさんは今年1月解雇された。造船受注の急減によって、仕事を失った現代重工<009540.KS>の従業員や下請け企業関係者は2015年から2017年にかけて約2万7000人に上る。

リーさんの妻は家計を支えるため、現代自動車<005380.KS>の下請け企業で最低賃金の仕事に就いた。20歳の娘は、蔚山で就職することを希望して現代重工系列の大学に入学したが、今では違う土地での就職口を探している。

一家の境遇は、蔚山の衰退を映し出している。

かつての豊かな企業城下町は、中国との競争、人件費の上昇、そして現代グループへの過度な依存によって大きく揺らいでいる。現代グループは、韓国で大きな影響力を持つ「財閥」と呼ばれる同族経営のコングロマリットの1つだ。

リーさんのような現代グループの従業員は、数世代にわたり、朝鮮戦争(1950─53年)による惨禍からの復興と、製造業を中心とする工業大国への変貌を支えてきた。蔚山も2007年までには、韓国で最も富裕な都市になっていた。

だが、韓国の財閥は今や独りよがりで、リスク回避志向に陥っており、海外の競合他社に追いつけずにいる、と一部専門家は危惧している。

アジア第4位の経済大国である韓国が輸出を重視してきたことも、主要な貿易相手国における保護主義の台頭や外的ショックに対する自らの脆弱性を高めてしまった。

「現代は私にとって、すべてだった。もうお手上げだ」──。現代自動車の工場から10キロ圏内で、同社従業員に人気の高層マンション群にある自宅で、リーさんは吐息を漏らした。

韓国統計局によれば、若者が職を求めて流出しているため、蔚山は現在、国内で最も急速に高齢化が進んでいる。同市の人口は1970年以降4倍に膨れあがり110万人に達したが、2016年には、他地域では増加しているにもかかわらず、初めて人口が減少に転じた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米下院共和党、気候変動対策費を大幅削減へ トランプ

ワールド

スターマー英首相私邸で不審火、建物一部損傷 ロンド

ビジネス

午前の日経平均は続伸、3万8000円回復 米中摩擦

ワールド

新ローマ教皇がゼレンスキー氏と電話、外国首脳と初対
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 8
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 9
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 10
    ハーネスがお尻に...ジップラインで思い出を残そうと…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中