最新記事

韓国経済

韓国のデトロイト、現代グループの城下町「蔚山」を襲う失業と自殺

2018年8月27日(月)16時30分

韓国版「ラストベルト」

蔚山が直面している課題は、多くの点で1970─80年代に米国中西部の都市が直面した状況とよく似ている。かつて繁栄した産業中心地から、大量の雇用と人口が失われた時期だ。

世界的な造船大手の本拠地であり、自動車関連産業が集まる主要拠点でもある蔚山は、今まさに韓国版「ラストベルト(赤さび地帯)」になりつつある、と一部の専門家と業界幹部は警告している。

「状況はもっと悪くなる可能性がある、現代とその下請けに頼りきりだからだ」と、ソウルにある延世大学のモ・ヨンリン教授(国際政治経済学)は語る。「他に支えるものが何もない」

伝説的な起業家だった鄭周永(チュン・ジュヨン)氏が、1967年に蔚山で現代自動車を創立。6年後には現代重工も立ち上げ、捕鯨で知られていた小さな漁村は、巨大な企業城下町へと変貌した。

数十年にわたってこの街には、高賃金や企業の補助付き住宅、潤沢な手当に魅せられた求職者が集まった。

現代グループの影響力は今も鮮烈に感じられる。現代のグレーの制服を着た従業員が現代製のクルマを運転し、現代百貨店でショッピングを楽しみ、社宅のマンションで暮らし、系列の病院で診察を受けている。子どもたちは現代系列の学校や大学に通っている。

業績低迷の影響に苦しむ現代重工は、英BPや米エクソン・モービルといった顧客企業の社員らのために使っていた、外国人向け大規模地域施設や社員寮などの売却を進めている。関係者によれば、こうした施設には、集合住宅やゴルフコース、プールや学校なども含まれる。

現代重工の広報担当者は、同社は「企業としての正常化」に向けて最大限の努力をしており、職不足と余剰労働力に対処するために労働組合とも協力していると強調した。

自殺率が国内で最悪に

現代グループの経営不振による影響は、蔚山全体に広がっている。

現代重工本社から数ブロック離れた、昔ながらの市場では、平日にもかかわらず市場は閑散としており、造船所の労働者向けの十数軒の飲食店や作業服店は閉店していた。

「われわれのような商売にとっても、すべては現代次第だ。今は現代の経営が悪化しているから、こちらもやりくりに苦労している」と、この市場にある小さなそば屋を営むEom Soon-uiさんは語った。

税関データによれば、韓国の昨年輸出総額に占める蔚山のシェアは12%。これは2000年以降の最低水準であり、ピーク時の19%を大きく下回っている。

またここでは自殺件数も増加している。韓国統計局のデータによれば、25─29歳の自殺率が国内最悪となっている。

現代重工が経営する蔚山大学病院の職員によれば、自殺を試みた事例は182件に上ったという。前年は約150件だった。

蔚山市内に最近竣工した橋では客を降ろさないよう、警察からタクシー運転手に指示が出ている。ここ1カ月で3人がその橋から投身自殺しだからだ。

「一生懸命働けば生活が楽になり、子どもたちが真面目に勉強すれば豊かな人生を送れる。そう皆が信じてきた」と蔚山の自殺予防センター職員パク・サムソンさんは語る。「だが、違う現実に直面して、彼らの多くが希望を失ったようだ。中には、最悪の選択をしてしまう人もいる」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米国防長官が板門店訪問、米韓同盟の強さ象徴と韓国国

ビジネス

仏製造業PMI、10月改定48.8 需要低迷続く

ビジネス

英製造業PMI、10月49.7に改善 ジャガー生産

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、10月は50 輸出受注が4カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中