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いじめで「死ななかった子」と親を取材して分かったこと

2018年8月24日(金)18時36分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<報道記者・キャスターとして子どものいじめ問題を取り組んできた著者による『いじめで死なせない』は、「もしものとき」のために親が知っておきたい知識を得られる一冊>


 一九九五年に日本テレビ報道局で教育を担当する社会部記者となり、各地の学校を取材して回っていた頃、ある少女が私に言った。
「助けてください。いじめは辛いのです。子どもどうしのことだろうと、放っておいたりしないでください」
 教室の中で起きる過酷ないじめに気づかない大人のひとりとして、私は心臓をぎゅうとつかまれた気がした。当時は、愛知県西尾市で大河内清輝くんが「いつもいつも使いばしりにされていた」と書き残して十三歳で亡くなった後で、いじめ自殺が大きな社会問題となっていた。(「はじめに」より)

『いじめで死なせない――子どもの命を救う大人の気づきと言葉』(岸田雪子著、新潮社)の著者が子どものいじめ問題に関わるようになったのは、このことが発端だった。

以後も二十余年にわたり、報道キャスターとしてニュースを伝えるようになってからも、子どもたちの声を聞き歩いたのだという。その結果として、絶望の淵から生きのびた子どもたちの声には、彼らを守るためのカギが隠されていたことに気づく。学校で傷つきながらも、親や周囲の大人からの一言で命をつなぎとめた子どもも少なくなかった。

だからこそ、本書の執筆を決意したのだそうだ。


 今、いじめの形態は変わっている。いじめる子、いじめられる子は入れ替わる。加害者となる子も苦しみを抱えている。インターネットを通しての気軽さ、という武器を身につけたいじめは、加害側に回る子どもを増やし、閉じたグループの中での被害は大人の目からますます遠ざかっている。そして加害側の子どもたちの背景には、親の影響が見え隠れする。(「はじめに」より)

その例として、まずは「いじめの現場を押さえた父」の話が紹介されている。趣味で集めていた旧札や財布の中の現金がどんどんなくなっていくことに気づいた父親のNさんは、長男が金を持ち出そうとしていた"現場"を押さえるのだ。

長男は、同級生の生徒数人から、総額で50万円あまりの金をとられたり、日常的に暴力をふるわれ、自宅マンションの屋上から飛び降りようとしたこともあったという。それでも命を失うことなくいじめの連鎖を断ち切ることができたのは、いじめの現場に踏み込んだ、そしてしっかり長男に寄り添ったNさんの姿勢と行動があったからだった。

よく一緒に遊んでいる同級生たちに金をとられていたことを突き止めたNさんは、あるとき、財布から金をとっていたこと、そしていじめられていることを長男から告白される。「いじめ」は、親からは「友だち」に見えていた同級生の男子たち7人によって、小学5年生の5月から10カ月にわたって続けられていた。長男はその実態を、その後何日もかけて両親に話した。

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