最新記事

ドキュメンタリー映画

かわいいだけじゃない! 映画『皇帝ペンギン ただいま』で温暖化問題を考える

2018年8月23日(木)16時30分
大橋 希(本誌記者)

皇帝ペンギンの子育ての環境は、温暖化によってさらに厳しくなっている (c) BONNE PIOCHE CINEMA – PAPRIKA FILMS - 2016 - Photo : (c) Daisy Gilardini

<大ヒット映画の続編『皇帝ペンギン ただいま』のリュック・ジャケ監督が語るペンギンの魅力と絶滅の危機>

自然ドキュメンタリー映画としては異例のヒットを記録し、米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を獲得、「ペンギン・ブーム」を生んだ05年の『皇帝ペンギン』。南極の過酷な環境で子育てをする皇帝ペンギンの生態がさまざまな角度から捉えられ、ペンギンの父と母、子供たちそれぞれが語っているようなナレーションの演出も新鮮だった。

その続編『皇帝ペンギン ただいま』が8月25日に日本公開される。監督は前作と同じフランスのリュック・ジャケ。舞台も同じオアモック(営巣地となる氷丘のオアシス)でペンギンの子育てを追うが、捉える視点が変わり、前作ではできなかったドローン(無人機)撮影や水中深くの撮影などがされている。本誌・大橋希がジャケに話を聞いた。

***


――皇帝ペンギンをもう一度撮ろうと思ったきっかけは。

大きく3つの理由が挙げられる。まずは15年にパリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)。その時期に合わせて自分が南極に行けば、ライブ配信で南極や皇帝ペンギンの現状を伝え、会議をより活性化できるのではないかと思った。

それから、前作とは別のやり方で、例えば1匹の皇帝ペンギンの半生を描くようなストーリーができるんじゃないかという思いがあった。皇帝ペンギンは映画を作るにあたってのさまざまな条件や魅力を持つ動物だと私は考えているので。

もう1つは、前作では水中の映像はほとんど撮れなかったが、それができる条件が整ったから。十数年たって機材の進歩があり、水中に長時間入って映像を撮ることのできる人たちとの出会いもあった。

――映画的な条件とは?

皇帝ペンギンの姿を描くということは、南極全体を描くということでもある。自分が初めて南極に行ったのは1991年で、そのときは生物学者として14カ月間、南極でいろいろなものを観測した。

そこで今までの人生観が覆されるような、ものすごく大きな衝撃を受けた。皇帝ペンギンの美しさやパワーにも、南極の景色が持つ力強さにも圧倒された。それを機に、科学者ではなく映画人として、人間と自然の関係性をテーマに仕事をしていく道を選んだ。

ペンギンが人間を怖がらないことも大きい。彼らはフィルムに収めやすい生き物なんだ。

――でも『皇帝ペンギン ただいま』は、温暖化問題についてそれほど強いメッセージを発していない気がする。

あくまで映画作品なので、そこで何か強い主張をするということはしない。映画は映画として映像を見てもらい、人々に問題意識を持ってもらうことが役割だと思う。

私は映画以外にも、展覧会のようなものを企画したり、子供たちや学生たちに教育的な材料を提供したり、あるいはCOP21に映像を提供して議論の手助けをしたりしてきた。映画以外のさまざまな手段で自分の主張を伝えられると思っている。

今回はCOP21に合わせて南極に行き、このような映像を撮ったが、同時期にフランスのミッテラン図書館で写真展も開催した。いろいろな方法で子供たちや学校の先生、若い人たちに、的確にこの問題を伝えたいと思っている。映画もその1つであって、あくまでも映像や音や物語性で人々の感情に訴えたい。

日本未公開だが、私は以前に『アイス・アンド・スカイ』という映画を撮った。南極の環境変化を具体的に捉えた作品で、『皇帝ペンギン ただいま』よりも強い政治的主張を込めている。それは映画としても評価され、15年のカンヌ国際映画祭ではクロージング作品として上映された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、和平巡る進展に期待 28日にトラン

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中