最新記事

ブータン

「幸せの国」ブータンで親子が見る夢はすれ違う──ドキュメンタリー映画『ゲンボとタシの夢見るブータン』の監督2人に聞く

2018年8月17日(金)11時10分
大橋 希(本誌記者)

映画では兄ゲンポ(左)と妹タシの心の葛藤を見つめる (c)ECLIPSEFILM/SOUND PICTURES/KRO-NCRV

<ブータンの今を見せる『ゲンボとタシの夢見るブータン』で長編デビューした若手監督のアルム・バッタライとドロッチャ・ズルボーに聞く>

ブータンと聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは「幸せの国」というイメージだろう。では、実際の暮らしや風習は? あまり知られていない彼らの今を見せてくれるのが、8月18日に日本公開される『ゲンボとタシの夢見るブータン』だ。

ブータン中部のブムタン地方に暮らすある家族の日常を通して、押し寄せる近代化の波と伝統の間で揺れ動くブータンを描く。父の望みどおり僧院学校に行き、1000年以上の歴史を持つ寺院チャカル・ラカンを継ぐべきかを思い悩む兄ゲンボ。自分の性別に違和感を覚えている妹タシは、女子サッカー代表チームに入ることを夢見ている。子供たちの将来を心配する両親と、自分の好きな生き方を望むきょうだいの思いは静かにぶつかって――。

監督はブータン人のアルム・バッタライと、ハンガリー人のドロッチャ・ズルボー。若手ドキュメンタリー製作者育成プログラムで出会い、国際共同製作の枠組みで本作品を完成させた2人に本誌・大橋希が話を聞いた。

***


――ゲンボやタシたちとの出会いは?

ズルボー:これまでブータン発のドキュメンタリー映画はあまりなかったので、現実を伝えるものを作りたかった。「移りゆく時代」を大きなテーマとして、近代化の波に揺れるブータンを撮ろうと思った。変わる風景だったり、人々の精神的な部分や若い人が抱く夢の変化だったり。被写体となる若い人々についてリサーチしていて、女子サッカーの代表チームのトライアウト(適性テスト)があることを知った。今のブータンでは、サッカー選手になることを夢見る若者がすごく多い。そんな夢を追う少女たちを撮ろうということになった。

そこでタシと出会った。彼女は男の子としてのアイデンティティを強く出しているが、すごくシャイでもある。その人となりに興味を引かれ、彼女を撮ってみたいと思った。親しくなるうちにゲンボや両親にも紹介され、1000年の歴史のあるお寺を守っている一家だと知った。
 
父テンジンは気さくで親切で、私たちを家族のように受け入れてくれた。そして(心と体の性が一致しない)トランスジェンダーである娘のことを、仏教的な解釈をしつつ受け入れようとしていた。努力している彼の姿がとても印象的で。もともとタシのことを描こうと思って製作を始めたが、この家族は近代化するブータンの縮図だと思い、そこに軸足を移した。

――テンジンはタシを驚くほど温かく受け入れているが、社会全体としてLGBT(性的少数者)には寛容なのか?

バッタライ:今のブータンでは正直、LGBTについての開かれた議論というのはあまりない。映画の中でもタシは、髪型のことなんかで村の人たちにからかわれている。父親が「タシは男の子なんだ」とオープンに話すのはとても珍しいこと。でもここ10年くらい、少しずつ若い世代のLGBTが自分の性についてカミングアウトする傾向になっている。でも親たちの多くはまだ、それにどう向き合えばいいのか分かっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、北朝鮮の金総書記に新年のメッセージ

ワールド

焦点:ロシア防衛企業の苦悩、経営者が赤の広場で焼身

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中