最新記事

北朝鮮

金正恩「デート禁止令」に、北朝鮮大学生の不満が爆発

2018年7月12日(木)11時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

今月初めに平壌で開催された南北統一バスケットボール大会を観戦する北朝鮮の人々 Yonghap/REUTERS

<南北朝鮮のチームが参加した平壌でのバスケットボール大会の開催期間中、大学生に対して「デート禁止令」を出した当局に若者からは不満の声が>

北朝鮮は、極端に娯楽の少ない国だ。そのため、特に若者たちは、自分たちなりに工夫をしなければならないのだが、そこにはそれなりのリスクもある。

北朝鮮では、「非社会主義的現象」の取り締まりと称して風紀取り締まりキャンペーンが繰り返されており、少しでも社会規範から逸脱したと見なされたら、とんでもない罰を下されることになる。

参考記事:北朝鮮の少年少女が恐れる「少年院送り」...それでも止められない遊びとは

ちなみに非社会主義的現象とは、文字通り北朝鮮が標榜する社会主義の気風を乱すあらゆる行為を指す。たとえば賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴、ヤミ金融、宗教を含む迷信などなどだ。もちろん、その他の刑事事犯も含まれる。

しかし実際のところ、北朝鮮には社会主義の気風などほとんど残っていない。1990年代に計画経済と配給システムが崩壊したために、その後はなし崩し的に市場経済化が進行。その過程で、売買春や薬物の乱用が、資本主義国も真っ青な勢いで蔓延した。

参考記事:コンドーム着用はゼロ...「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

男女の出会いの機会も、日本や韓国に比べるとごく限られており、少ないチャンスで意中の異性を射止めなければならない。

そんな中、今月の4日と5日に首都・平壌の柳京鄭周永体育館で開かれた、北朝鮮と韓国による南北統一バスケットボール大会を、若者らは大いに楽しみにしていたはずだ。ところが北朝鮮当局は、そんな華やいだ気分に水を差す、とんでもない指示を下した。

大会に合わせて北朝鮮当局は、平壌市民に対して服装に気をつけることと、野外で男女が踊らないようにとの指示を出したのだ。

米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)の平壌情報筋によると、平壌市内の人民班(町内会)会議で、次のような指示が伝えられた。

「北南統一バスケットボール競技が行われる間、明るくきれいな服装にして、南朝鮮(韓国)に平壌市民の文化レベルを見せつけよう」

「男女がグループになってピクニックでビールを飲み踊って歌うという資本主義遊び人風は、徹底的に排撃せよ」

別の情報筋によると、今月初めから市内の大学生に対して大学当局から「大会中は、制服をきちんと着て、夜に平壌駅前、高麗ホテル前の通り、大同江の遊歩道での恋愛(デート)は根絶せよ」との指示が伝えられた。

各大学の青年同盟は糾察隊を立ち上げ、通りで朝から晩まで学生の行動や動線を監視した。これは、学生がバスケや韓国人見たさに体育館に近づくことを未然に防ぐための措置だと情報筋は指摘した。

4月に行われた南朝鮮芸術団の公演を多くの学生が見たがったが、実際に見ることができたのは選びに選びぬかれたごく一部の学生だけで、えこひいきに対する金正恩党委員長への不満が高まった。

今回のバスケ大会も見られなかった学生たちからは、「今の北朝鮮がやっていることは、朝鮮王朝時代の鎖国政策と何も変わらない」との批判が上がっているという。金正恩氏は日頃、「これからは若者だ」として青少年を重視する発言を行っているのだが、そのくせ、若者の気持ちが読めないところがある。

本人がまだ34歳と若いだけに、青年層とのコミュニケーションがうまくできなければ、将来的に国家運営にまで支障が出てきてしまうのではないだろうか。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

再送フーシ派がイスラエル攻撃、イエメンの親イラン武

ワールド

再送-UAEのアブダビで5人負傷、火災も発生 ミサ

ワールド

タイ新政権、来週発足へ アヌティン首相が表明 

ビジネス

中国の大手国有銀3行、25年の利益ほぼ横ばい 不動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度を決める重要な要素とは?
  • 2
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?...「単なるホラー作品とは違う」「あの大作も顔負け」
  • 3
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のSNS動画が拡散、動物園で一体何が?
  • 4
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 9
    ウィリアム皇太子が軍服姿で部隊訪問...「前線任務」…
  • 10
    「酷すぎる...」ショッピングモールのゴミ箱で「まさ…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 10
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中