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イタリア国債の混乱、債券市場で「世界的流動性危機」の前兆か

2018年7月6日(金)13時03分

7月3日、5月末にイタリア国債市場が一時大きく混乱して価格形成に支障が生じた一因は、長年にもわたる世界的な債券取引の縮小にある。写真は2011年、ワルシャワで撮影(2018年 ロイター/Kacper Pempel)

5月末にイタリア国債市場が一時大きく混乱して価格形成に支障が生じた一因は、長年にもわたる世界的な債券取引の縮小にある。また投資家の話では、イタリアの事態は今後債券市場で史上最大級の機能不全が起きる前兆かもしれないという。

問題は過去10年間、あらゆる債券市場で流動性が低下してきたことだ。その理由としては、2008年の金融危機以降に導入された新たな規制の影響と、主要中央銀行による大規模な債券買い入れ(量的緩和=QE)が挙げられる。

流動性の枯渇は既に近年、新興国債や高利回り債の動揺を誘ってきた。ただ今回のイタリアの出来事は、厚みがあって歴史的に安定していた西側諸国のソブリン債でさえ、大混乱に見舞われた際にはいつでも取引ができない状態になることが証明された。

BNPパリバのファンドマネジャー、アルノー・ギヨーム・ラミー氏は「イタリアで起きたことからポートフォリオマネジャーは、流動性が相当な代償を伴ってやってくるものだと教わった」と述べた。

債券取引プラットフォームを運営するマーケットアクセスの子会社トラックスのデータに基づくと、14年6月に1兆2900億ユーロだったユーロ圏国債の出来高は、今年6月時点で6760億ユーロと半分近くに目減りした。

一方で売買気配値のスプレッドはなお低水準とはいえ拡大している。ユーロ圏で最も活発に取引されるドイツ10年債ですら、13─15年まで0.05─0.1ユーロだったスプレッドは、足元で0.15─0.30ユーロに開いた。

スプレッド拡大の一部は、欧州中央銀行(ECB)が15年以降実施してきたQEによってもたらされた。このためQEが年末に打ち切られれば、流動性は改善するとの見方が多い。実際、米国債はQE終了後流動性が増えているもようだ。米証券業金融市場協会(SIMFA)の集計では、今年1─5月の米国債の1日当たり平均の出来高は、前年同期比4.7%増の5543億ドルだった。

しかしより幅広く見れば、流動性の枯渇は規制強化というもっと大きな問題が引き起こしている。09年にまとめられた新銀行自己資本規制バーゼルIIIにより、銀行は引き受けるリスクに対する資本手当ての拡充が必要となり、手元に債券を保有して取引の円滑化を担う「マーケットメーク」業務をコスト負担増大の面から事実上縮小せざるを得なくなったからだ。

多くの市場関係者は、この流れが債券市場の基盤を弱めたとみなす。そうした中で5月29日、イタリア国債への買い需要が消滅し、気配値スプレッドが通常の0─5ベーシスポイント(bp)から一時30bpまで急拡大した。

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