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ブラジルで急増する貨物強盗 アマゾンのEC展開にもブレーキかけるか

2018年6月6日(水)11時00分

貨物強盗による損失を正確に測る指標は入手困難だ。全国規模の貨物取引グループNTC&ロジスティカは、2016年に13億6000レアル(約400億円)の損失が生じたと試算するが、実際の損失は、恐らくはるかに高い。

サンパウロ州貨物輸送協会のヘロー理事長によれば、加盟企業が報告する警備への投資額は、ほんの数年前までは平均で売上高の4─6%程度だったが、現在は10─14%にまで増加しているという。

治安の悪いリオデジャネイロ州では、その比率が15─20%にも達している。たとえば食料品チェーンのプレズニックでは、貨物の多くに武装警備員が護衛として随伴しており、低マージンの事業にもかかわらずコストが増大していると、同社のプロメッティ氏は言う。

保険料も上昇している。保険各社は、リオデジャネイロ州での貨物輸送について貨物価額の最大1%に相当する「緊急料率」を要求している、と同州の貨物輸送協会の幹部は語る。

マガジンルイザ、ビア・バレージョ両社の幹部らによれば、損失に歯止めをかけるため、治安の悪い地域における配送業務の一部を、現地の状況をよく知る地元企業に外注しているという。

物流企業テグマ・ジェスター・ロジスティカは2014年、EC関連の運送事業を、大手オンライン小売のB2Wシア・デジタルに売却したが、テグマのオドンCEOは、売却理由の一つは警備問題だったとロイターに語った。

切り札は航空輸送か

マーリン氏が指揮を執る警備センターでは、サンパウロから隣接するミナスジェライス州ベロオリゾンテまでの595キロの行程で、運転手がトイレ休憩を許される数少ない場所がモニター上に表示される。

強奪が発生する可能性を示す「ヒートマップ」が、運転手が取るべきルートを指示している。赤い表示は深刻な危険のある地域だ。画面には赤い部分が広がっている。スタッフは、道路周辺で発生したトラブルの情報を把握するため、ソーシャルメディアもチェックする。

トラック襲撃にうんざりした一部の企業は、空路を選び始めている。

ブラジルの航空会社アズールでは、ここ数年、貨物事業が劇的に伸びた。同社貨物部門の営業部門を指揮するレアンドロ・ピレス氏は、携帯電話などの軽量だが高価格の消費財輸送が特に伸びていると語る。リオデジャネイロとサンパウロを結ぶ354キロ程度の短距離路線でさえ、需要が伸びているという。

だが、航空輸送も絶対に安全というわけではない。

3月初旬、警備員を装った窃盗団がサンパウロ近くの空港に侵入し、独ルフトハンザ機で空輸予定だった現金500万ドルを奪って逃走した。ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で1978年に発生した有名なルフトハンザ機に対する強奪事件を思い起こさせるような犯罪だ。サンパウロでの事件はまだ解決していない。

「犯罪者は日々進化している」とブラスプレスのマーリン氏。「私たちも、それに合わせて学習し、適応しつつある」

(翻訳:エァクレーレン)

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