最新記事

犯罪

ブラジルで急増する貨物強盗 アマゾンのEC展開にもブレーキかけるか

2018年6月6日(水)11時00分

Gram Slattery [グアルーリョス(ブラジル) 30日 ロイター]

サンパウロの埃っぽい郊外に設けられた格納庫のような部屋では、ずらりと並んだモニターをにらみながら、元憲兵隊大佐アントニオ・マーリン氏と10数人のスタッフが、数百台もの貨物トラックの位置を追跡している。

サンパウロ州憲兵隊に従事していた34年間のあいだで、大腿部に銃撃を受けたり、州知事の護衛を2年間務めた経験もあるマーリン氏だが、民間トラック運送会社における現在の職務が、彼にとって最大の試練となるかもしれない。

ブラジルでまだ発展段階にある電子商取引(EC)ビジネスを揺るがす度重なる貨物強盗から、衣料品や化粧品などの商品を守ることが、マーリン氏の仕事だ。

国内2大都市を抱えるサンパウロ、リオデジャネイロ両州だけでも、昨年2万2000件の貨物強盗が報告されている。これは1日当たりで過去最高の約60件という頻度で、2012年から倍増している。貨物輸送を襲っているのは組織的な犯罪集団だとみられており、年間損害額は数億ドルに達すると試算されている。

「リスクは常にある」とトラック輸送・物流部門の国内最大手ブラスプレスで警備部門を率いるマーリン氏は語る。「貨物をトラックに積んだ瞬間から始まり、国内移動中ずっとだ」

あらゆる種類のビジネスが標的となっているが、強盗団が特に好むのは、盗品の転売が容易な消費者向け商品だ。このことは、急成長するブラジルの電子商取引にとって、特に大きな障壁となっている。警備コストが利益マージンを圧縮しており、オンライン小売や物流関係企業は、ブラジルでの事業戦略の練り直しを迫られている。

例えば、オンライン小売ビア・バレージョは、トラック監視のために人工衛星を利用した追尾システムを開発。同社の物流部門を率いるマルチェロ・ロペス氏はロイターに対し、多くの貨物に武装警備員を随伴させていると語った。

「セキュリティについては費用を惜しまない」とロペス氏。「商品とスタッフを守るためにかなりの投資をしている」

同社は「クリック・アンド・コレクト」事業にも資金を投じている。オンラインで注文した商品を、顧客が系列の実店舗で受け取れるサービスだ。ロペス氏によれば、このプログラムは安心を重視する労働者階級の消費者に好評であり、危険な地域を行き交う配送トラックの本数も減らすことができるという。

ブラジルの小売会社マガジンルイザもオンライン販売を成長させるために同様のモデルを採用している。だが、ルイザ・トレジャーノ会長の昨年の談話によれば、貨物強盗への懸念もあり、リオデジャネイロ州での事業拡大は避けているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続落、米エヌビディア決算控えポジシ

ビジネス

NZ中銀、政策金利5.5%に据え置き 「制約的政策

ビジネス

英米の企業、今年の選挙見据え為替ヘッジの期間を長期

ワールド

中国、対中強硬派の元米議員に制裁 内政干渉を理由に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中